拡張ミッション運用状況報告
★運用状況報告(2024/8/27-2024/9/5) ★
最近は7月に打ち上げに成功した「だいち4号」から関東地方を撮影した初観測画像が届いたという嬉しいニュースがあり、自然災害のリスクを減らしてくれるという大きな目標に向けても益々期待ができますね。さてそんな中、「はやぶさ2」も次の目的地である小惑星(2001 CC21)に向けて順調に飛行中です。 飛行中は何もしていないわけではなく、「はやぶさ2」に搭載されているカメラを用いて天体観測を行うことがあります。現在は「ONC-W2」という「はやぶさ2」の側面についている広角の光学航法カメラを用いて、太陽系の天体の観測を行っています。ただ、私たちがカメラを用いて撮影するのとは異なり、 「はやぶさ2」本体の向きを撮影したいものの向きに向けてあげなければなりません。また「はやぶさ2」の姿勢によっては、太陽からの熱の影響を受けてしまったり、迷光と呼ばれる不必要な光の散乱が発生してしまったりすることがあるので、 「はやぶさ2」の姿勢を上手いこと調整してあげる必要があります。撮影自体は9月の上旬まで行う予定です。撮影結果については公式の発表をお待ちください!(土川勢矢)
★運用状況報告(2024/6/15-2024/8/26) ★
4月中旬から実施していた合運用は7月初旬に終了し、はやぶさ2と通常の通信が出来るようになりました。不自由なく通信が出来る事がどれほど大切な事かを身に染みて感じました。 さて、はやぶさ2の運用中には同じ部屋で他の宇宙機の運用が行われていることがあります。特に最近はX線分光撮像衛星"XRISM"が運用を行っている場面をしばしば見かけます。はやぶさ2とXRISMの運用の仕方を比較すると大きく異なっている部分があります、それは運用時間です。最近のはやぶさ2は3時間~8時間程度の長時間の運用を1日に1回行っています。一方でXRISMは数十分という短時間の運用を1日に複数回行うことが多いようです。このような差異はそれぞれの宇宙機が飛翔している場所が異なる事に由来します。はやぶさ2は地球から離れて太陽の周りを回っています。地球から非常に遠い場所にいるために星空の中での位置が固定されているように見え、地球の自転により1時間で約15°ずつというゆっくりした速さで動いて見えます。つまり、約半日の間ずっと日本から見ることが出来るのです(恒星や星座などと同じ見え方です)。一方でXRISMは地球周りの低軌道を回っており、地球から比較的近い場所にいるために星空よりもずっと速いスピードで動いているように見えます。そのため数時間に1回、数分間のみ日本から見ることが出来ます(国際宇宙ステーション等と同じ見え方です)。この違いにより、運用の時間が異なるのです。 このように、それぞれの宇宙機ごとに異なる特徴があり、同じ組織内で作られた宇宙機だとしても比較すると大きく異なる点が多いのが面白いなと感じています。(小磯拓哉)
★運用状況報告(2024/5/25-2024/6/14) ★
現在、はやぶさ2は合運用の真っ只中にあり、探査機とのやり取りがしづらい状況が続いています。運用パスの最初から最後までテレメトリを受信できない時があるのはもちろん、一度受信したとしても運用局周辺の天気が悪化するなどして途中から受信できなくなる場合もあり、気が抜けません。特にMGAを用いた通信を行う際には、受信できない状況に陥りがちです。そんな時でも、通信の設定を変更したり一度にコマンドを打つ回数を通常時より多くしたりと、様々な工夫を重ねることでなんとかして探査機と通信しようと努力は続けられています。初代はやぶさが宇宙空間で通信途絶状態になった際に不断の努力が続けられた日々の、あの時の精神が引き継がれているといったところでしょうか。そんな状況でも探査機の状態を把握するために用いられるのが、同じく初号機から引き継がれているビーコン運用です。ビーコン運用に基づく探査機の状態把握が行われるのは昨年12月頃の合運用の時以来です。その時と比較すると今回は1と0からなるビット情報が目視で読み取りやすい気がします。昨年のビーコン運用時はノイズが大きすぎて信号が全く読み取れない時期がありましたが、今回はそれほどではありません。もちろん、運用のタイミングによって読み取りやすさは変わるため、読み取りが難しい時もありますが…。そんな合運用の日々もまもなく終わりを迎えます。はやぶさ2と再び不自由なく通信できる日々が待ち遠しいですね。(鶴谷柊朔)
★運用状況報告(2024/4/1-2024/5/24) ★
最近は太陽表面で数十年に一度と言われる大規模フレアが発生し、日本をはじめ世界各地でオーロラが観測されるなど話題になりましたね。そんな少々荒れ模様の宇宙空間でしたが、はやぶさ2は現在太陽を挟んで地球と反対側の合の位置を順調に航行しています。この合の位置関係にある状態は4月後半から始まりました。今までにも今回のような合の期間はありましたが、今回は約3ヶ月という長期間に及ぶものになります。この期間には、太陽を挟む影響によりデータ取得やコマンド送信を行うことが難しくなるため、はやぶさ2が自力で乗り切れるよう予め準備をする必要があります。合運用前の4月前半には、光学航法カメラ(ONC)観測のための運用、そして現在の長期に及ぶ合期間に向けての準備を行いました。4月後半にはいよいよ合運用を迎え、5月中も同様の運用が続いています。運用中には、探査機からビーコンで送られる最小限の情報を目視で読み取ることで健康状態を把握します。また、時々テレメトリデータを取得できたり、タイムライン(TL)登録を行ったりすることもあり、その時には、意思疎通できる安心感を感じます。地球からできることは限られていますが、はやぶさ2がこの期間を乗り切れるようこれからもしっかり見守ります。(粟木早恵)
★運用状況報告(2024/3/1-2024/3/31) ★
新年度を迎えて新緑の眩しい季節、皆様いかがお過ごしでしょうか。私はSVSとして学生ながらも運用に携わり、少しづつ業務内容に慣れてきた頃です。さて、3月のはやぶさ2の運用では中間赤外カメラ(TIR)や光学航法カメラ(ONC)を用い観測運用を実施していました。過去タッチダウンに向けた運用ではTIRやONCはりゅうぐうの熱物性や物理的状態などを観測するのに用いられました。過去の運用用の機器が、現在でも現役に活躍中です! また、運用中、積雪や強風の影響から通信困難が生じ「フレーム抜け」という現象も生じました。「フレーム抜け」とは地上に降ろすデータの一部分が急な通信断で欠損してしまう現象で、欠損部のデータを再受信する必要があります。通信回線が細い深宇宙探査では観測してくれる探査機だけではなく、受け取る地上のアンテナの役割も重要なのですね。 4月中旬以降は地球とはやぶさ2との間に太陽を挟む「合運用」が始まります。太陽の影響で普段の通信が難しくなりため、通常とは異なりビーコンによる最低限の情報( 0と1の羅列)の受信が強いられてしまうのです。これから通信が厳しい環境を迎えますが、はやぶさ2は頑張ってくれるはずです!なお、合運用については、限界拡張日誌「第3拡張」がわかりやすいです!(水沼健人)
★運用状況報告(2024/2/14-2024/2/29) ★
先日はH3ロケット試験機2号機の打ち上げが成功し、SLIMの月面着陸と越夜の成功と喜ばしいニュースが続き、より一層の盛り上がりを見せていますね。はやぶさ2においても2026年の小惑星フライバイや、その後の地球スイングバイや小惑星ランデブーミッションに向けた準備が着々と進められています。現在は定常運用に加えて特殊運用として主に姿勢制御系のソフトウェアの書き換えと書き換え後の動作確認を行うための試験運用を行っています。試験運用については、新しい姿勢制御モードでのIES(イオンエンジン)の運転試験を行っています。イオンエンジンも久々の作動ということで気が引き締まる運用となりました。今後は試験運用時の姿勢データ等をDR(データレコーダ)再生で順次取得し詳細な解析を進めていきます。現在拡張ミッションに移行しているはやぶさ2ですが、軌道制御用に電気推進であるイオンエンジン、姿勢制御用に化学スラスタを搭載しています。今回実施したようなRWを用いた姿勢制御による推進剤の消費を抑え、拡張ミッションを乗り切れるよう運用していきたいと思います。(橋爪翼)
★運用状況報告(2024/1/23-2024/2/13) ★
先日はSLIMの月着陸成功のニュースがあり、日本の宇宙開発も盛り上がっていますね。そんな中、「はやぶさ2」の運用でも先日は普段の運用とは異なる特殊運用が行われました。一口に運用といっても定常運用と特殊運用があり、定常運用では「はやぶさ2」の内部に保存されているデータの中でスーパーバイザーが優先順位をつけて地球に送るようにコマンドを送り受信するDR(データレコーダ)再生や地球から「はやぶさ2」までの距離の測定をするRNG(レンジ)計測などが行われます.一方で、先日行われた特殊運用では、姿勢制御に関する試験が行われました。探査機に大きな異常が見つかった場合に太陽電池パドルを太陽の方向に向けるためには、通常はスラスタを噴射しますが、今回はリアクションホイール(モータ駆動によって円盤状の金属板を回転させ、角運動量を発生させる装置)のみを用いて太陽を指向する姿勢制御を打ち上げ後初めて行いました。このような特殊運用の際には、相模原の管制室にプロジェクトマネージャーをはじめ、多くの関係者が集まり賑やかな運用となります。2026年の2001CC21フライバイまではまだ時間がありますが、少しずつ準備は始まっています。(土川勢矢)
★運用状況報告(2023/12/10-2024/1/22) ★
新年が明けて数週間が経った今日この頃ですが、はやぶさ2も合期間(太陽の向こう側を飛行する期間)が明けたところです。そのため、今は通常通りの運用によって探査機のデータを得ることができています。ビーコン運用により最低限の情報をなんとか得ようとしていた苦労の日々も、今となっては過去ですね。とはいえ、今後もはやぶさ2の運用において様々な困難に直面することが想定されるので、日々気を引き締めて運用に臨んでいきたいところです。そんな運用の日々ですが、新年になりSVS(スーパーバイザーサポート)の担当チームに新たな学生メンバーが加わりました。メンバーが加わる時期には、以前からSVSを務めていた学生が新メンバーと共に運用に入って仕事の進め方を伝えることになります。その際には多くの専門的な知識を伝える必要があるため、仕事内容を共有することは簡単ではありませんが、より多くの人が運用に携わることになるのは良いことですね。はやぶさ2は今年も多くの人に見守られながら、2026年の小惑星フライバイに向けて航行を続けていきます。(鶴谷柊朔)
★運用状況報告(2023/12/4-2023/12/9) ★
最近は急に寒くなったり暖かくなったりと気候が不安定ですね。それとシンクロするかのように、はやぶさ2との通信も現在不安定な傾向にあります。というのも、はやぶさ2は引き続き「合運用」(太陽の向こう側を飛行する「合期間」での運用)を実施しており、太陽の影響で通信が難しい状況が続いているためです。既に合期間終盤に差し掛かりつつあり、こちらから送ったコマンド(指令)に対して、はやぶさ2がテレメトリ(応答)を返してくれることも増えてきました。 前回の運用状況報告にも記載がありますが、通常運用時はたくさんのテレメトリを受け取ってはやぶさ2の状態を細かくチェックすることができるのに対して、現在はビーコン運用により最低限のデータのみを取得しています。連絡が非常に取りにくい状況なので、返信も淡白にならざるを得ず、通常10進数や16進数の数値で返ってくる返答も、現在は0, 1の2進数です。スタートの合図として送ってくれる1bit(スタートビット)を見逃すと、せっかくはやぶさ2が送ってくれた情報をうまく読み取れないので、いつも以上に気を引き締めて運用に臨んでいます。 また近いうちに合運用があるようです...通信状況の悪化に負けず、はやぶさ2が無事次の目標天体に到着できるように、引き続きしっかりコミュニケーションを取っていきます。(大月幸穂)
★運用状況報告(2023/7/27-2023/12/3) ★
紅葉も散りつつ、地域によっては雪が降り始める季節となってきましたが、はやぶさ2は現在地球から見て太陽の向こう側を飛行しています。11月中旬から12月中旬までの約1ヶ月間、はやぶさ2は地球から見て太陽の向こう側を飛行する「合期間」を迎えています。特に11/28(火)には、太陽-地球-はやぶさ2のなす角が0.5°以内と、打上げ以来最も角度が小さい状態で運用を行いました。はやぶさ2が太陽の向こう側にいる場合、はやぶさ2からの通信が太陽の影響を大きく受け、通信状況が非常に悪くなります。そのため、最近の運用では、必要最低限の情報だけを送るビーコン運用を2018年12月以来、久しぶりに行っています。通常は送られてくる電波に変調がかけられ多くのデータを受信しますが、ビーコン運用では、電圧値等のはやぶさ2の状態を示す重要な最小限のデータを2進数でビーコンにのせ、地上ではビーコンの強弱で0か1かを読み取ります。通信環境が悪くても、工夫をこらして何とかはやぶさ2の最低限の健全性を確認する運用をおこなっています。仮に異常が発生してもCMDを送ることができませんが、合運用明けに手順を準備できるメリットがあります。もう暫くすると通常の運用に戻りますが、今後もはやぶさ2の状態を注視しつつ、長い旅路を見守っていきます。(水戸 拓朗)
★運用状況報告(2023/6/19~2023/7/26)★
暑さの厳しいおり、みなさまに於かれましてはなるべく直射日光を避けて熱中症にならないようにご注意いただきたいところですが 、はやぶさ2はそうもいきません。というのも、はやぶさ2はその電力を維持するため、基本的には太陽電池を太陽に向けなくてはいけないからです。ところで、現在はやぶさ2は地球から見て太陽の反対側の方向に飛行し、徐々に合( 地球-太陽-はやぶさ2と並んだ時)に近づきつつあります。 すなわち、はやぶさ2から見た太陽と地球の方向が近づいているのです。それにより、はやぶさ2が通常の太陽指向姿勢から地球指向姿勢へ姿勢を変更するための制御が小さく済むようになります。そうすると、はやぶさ2の高利得アンテナは太陽電池と同じ面についているので、合が近づくことによって、高利得アンテナを用いた通信がしやすくなります。近日の運用では、このような好条件を逃さず、多くの理学・工学データをはやぶさ2から取得しています。(中澤淳一郎)
★運用状況報告(2023/5/22〜2023/6/18)★
はやぶさ2は現在も安定して宇宙空間を旅しています。 最近は大きなイベントが無いため、プロジェクトメンバーの負担軽減の観点から衛星運用頻度が減りつつあります。 拡張ミッション初期やイオンエンジン運転中などは週5回程度、リュウグウへのタッチダウン等の大きなイベントがあるクリティカルフェーズでは毎日運用がなされていました。 最近はそれが週2回程度まで減っています。 では、さらに頻度を落として週1回にすることは出来るのかというと、これはかなり難しいです。 はやぶさ2は地球との交信が無い状態が1週間程度継続すると、「自分は迷子になっている」と判断してセーフホールドモードに移行します。 そのような状況に陥らないためには、最低でも週2回は運用する必要があるのです。 はやぶさ2拡張ミッションは今後10年程度と長い時間続く見通しであるため、プロジェクトメンバーの体力も考慮しながら運用を実施しています。(小磯拓哉)
★運用状況報告(2023/4/26〜2023/5/21)★
はやぶさ2は今日も元気に宇宙を旅しています。小惑星2001CC21へのフライバイ は2026年7月。ではそれまで暇かというと、そんなことはありません。大きなイベントがない今だからこそできる運用もたくさんあります。 例えば、5月8日の週には、バッテリーのリセット充電を実施しました。 はやぶさ2のバッテリーには、合計で11個の宇宙用リチウムイオン電池(セル)から構成されています。バッテリーを長年使用する中でセルは劣化していき、セルごとに電圧のばらつきが見られるようになります。 そこで、このリセット充電によって、11個のセルの電圧のばらつきを整えてあげるのです。小惑星フライバイまでにはまだまだ時間がかかりますが、これからも気を緩めず、はやぶさ2を見守っていきます。 (藤田雅大)★運用状況報告(2023/4/12〜2023/4/25)★
はやぶさ2は打上げから3000日を超えて、今日も彼方を飛行します。そんな中、4月18日の運用では、「星の王子さまに会いにいきませんか ミリオンキャンペーン」の第三弾となる「ミリオンキャンペーン2♯」として、 皆さんからいただいたメッセージを画像と同等のフォーマットのデータに変換し「はやぶさ2」に送り、探査機のメモリーに格納しました。データのアップロード中は特に不具合もなく、無事にすべてのデータを送信できたことが確認されました。地球からはるか2億キロの虚空でも、はやぶさ2は孤独ではなく、みなさまの温かいメッセージとともにあります。(中澤淳一郎)
★運用状況報告(2023/3/27〜2023/4/11)★
うららかな春の日差しの下、太陽を仰ぎながら、そのまた向こう側…地球から2億キロの彼方を飛ぶはやぶさ2の存在を思い浮かべます。 運用としてはTIR(中間赤外カメラ)でDark観測のコマンドを登録しました。TIRは熱輻射の2次元イメージングを行い、ターゲット天体の 1 自転分の撮像から表層物質の熱履歴を算出、そこからその後の天体の運命を決める重要な情報である熱物性を推定するカメラです。 今回は対象天体なしに撮影したことで得られる真っ暗な画像を基に、機器の校正を行います。小惑星1998 KY26と2001 CC21に到達した際はここで得られたノウハウが活かされる予定です。(内田雄揮)
★運用状況報告(2023/3/13〜2023/3/26)★
昨年11月からSVSとして入り、はやぶさ2の運用に携わることで、少しずつ運用の内容を理解できるようになってきました。順調に運用が続いていおり、定常運用日では、はやぶさ2から送られてきたデータをみて異常がないか確かめたり、姿勢を変えハイゲインアンテナを使ってデータを地球に下ろしたりします。 例えば、はやぶさ2が太陽に近づいたときには、探査機の温度が通常よりも上がってしまうことがあります。こうしたときは、アンテナの発熱を抑えるために、運用が終わったら受信アンテナを切り替え、温度を抑えたりするなど運用で工夫しています。 また姿勢変更によっては、探査機との通信レートが落ちることもあるので、通信レートを一段下げるなど、状況を適切に理解して、臨機応変に運用しています。将来自分でも運用できるようになりたいと思いました。(望月雄友)
★運用状況報告(2023/2/27〜2023/3/12)★
昨年の秋ごろからSVSの業務に関わるようになり、ようやく落ち着いて業務をこなせるようになってきました。はやぶさ2は次の小惑星観測に向けて順調に航行を続けており、シフトに入るたびに地球から遠ざかっていることを実感します。現在は定期的に光学航法カメラ(ONC)による観測を行っています。3月6日には3月13日に行う光学航法望遠カメラ(ONC-T)の暗電流計測に向けてタイムライン登録を行いました。また美笹深宇宙探査用地上局(MDSS)では送信機などの設備を冗長にするための作業を行っているため、現在はやぶさ2の運用には臼田宇宙空間観測所のアンテナを使用しています。この美笹の新しい装置の稼働に向け、3月5日にははやぶさ2のテレメトリを受信して冗長系のチェックを行いました。このように地上設備の確認のために探査機からのテレメトリを使用することもあるのですね。(五味 篤大)
★運用状況報告(2023/2/13〜2023/2/26)★
2月19日、遂にはやぶさ2が打ち上げられてから3000日が経ち、2月14日には現在行われている拡張ミッションが始まってから800日が経過しました。これだけ長い時間が経過していますがはやぶさ2は今日も順調に航行しています。さて、節目となるバレンタインデーには、前回の運用状況報告にもあったLIDARを、昇温が済んだため数年ぶりに動かしました。まずは無事にレーザー光を出すことが出来て一安心です。実はこの操作、一つ一つ丁寧にコマンドを送信しており、3時間を超える長丁場でした。当日は他にも、系外惑星を観測するための光学航法カメラのタイムライン登録や、週に一度のバッテリー補充電など、やることがとにかく多かったのですが、チーム一丸となってスケジュール通りに運用することができました。(保田 慶直)
★運用状況報告(2023/1/30〜2023/2/12)★
昨年の冬から新たにSVSに入り、年が明けてやっと業務内容に慣れ、運用中に行われるコマンドの一つ一つの意味にも注目できるようになってきました。 さて、探査機は順調に飛行を続けていますが、最近の運用ではLIDARチェックアウト運用を行うべく、LIDAR系の昇温を開始いたしました。 LIDARとはLaser Imaging Detection And Rangingの略称です。レーザー光を測定対象に当てて返ってくるまでの時間を計測することで対象までの距離や表面形状を測ることができます。 近年では人工衛星だけでなく自動車や航空機、ドローンにも搭載されて我々の生活にも活用されています。 「はやぶさ2」では、小惑星Ryuguの表面に当て反射する光を検知することで、小惑星の3Dモデルを作りました。 2031年の小惑星1998KY26到着まで温存しますが、時々状態確認のためチェックアウト運用を行います。 小惑星に到着してからどのような観測結果が得られるのか楽しみで仕方有りません。(魚住承吾)
★運用状況報告(2023/1/16〜2023/1/29)★
新たなSVS(スーパーバイザーサポート)メンバーとして運用の一端を担うことができる ようになりました!とは言いつつもまだまだ数回の運用参加しかできておらず、わからないことや驚くようなことも多いためSVさんたちに質問責めにしてしまっている現状です。 特に最初に驚いたのは、初めての運用に入る予定だった日がSLS(スペースローンチシステム)の打ち上げ延期により変更になったことです。アンテナの使用状況によってはこのよ うなこともあるそうです。また、別の運用の際にも臼田局のアンテナに雪が積もってしまっている時には、元々256bpsでダウンリンクを行う予定だったものを64bpsに落として 運用を行なったこともありました。このように地球上での天気などの制約が広大な宇宙を飛び回る宇宙機の運用にクリティカルに影響を及ぼすというのは、なんとも皮肉なものだ なと思います。 本運用期間では新人SVSにも比較的わかりやすい定常運用を中心に行なっていました。定常運用では、過去の運用状況報告(2021年9月22日)に登場する、はやぶさ2の状態を知る ためのDR(データレコーダ)再生や距離を測定するためのRNG計測を行います。また定常運転の他には、前回までの運用期間でも行なったONC(光学航法カメラ)観測のTL(タイムライン)登録などを行いました。TLとは、コマンドと時刻が紐づいたものであり、はやぶさ2が実行するコマンドのスケジュールのようなものです。これをあらかじめ送っておくことで、管制室から直接コマンドを送ることなく実行させることができます。そのため探査機運用において 欠かせないものの一つです。はやぶさ2に搭載された様々な技術や工夫を日々感じることができ、大変有意義な経験をさせてもらっているなと思います。と同時にこれらのはやぶさ2の技術や思いを自分が開発者の立場に立った際には次に繋げていかなければと強く感じています。(紫原聖之)
★運用状況報告(2022/12/26~2023/1/15)★
遅ればせながら、明けましておめでとうございます。昨年11月よりSVS (スーパーバイザーサポート)の新メンバーに入りましたが、徐々に業務内容にも慣れてきました。運用に入るたびに学ぶことだらけですが、そのなかでもめずらしい運用がありました。系外惑星の観測です。光学航法カメラ( ONC)を用いて、トランジット法と呼ばれる方法で観測を行いました。トランジット法とは、主に新たな太陽系外惑星を発見するときに用いられる手法の1つです。系外惑星が主星の前を横切る時に、その主星のわずかな減光を検出することで系外惑星を発見します。今回はすでに発見済みの系外惑星を観測することで、ONCの精度確認を行いました。 ONCは航法観測やリュウグウの科学観測がメインの目的ですが、系外惑星の観測も行えるのですね!系外惑星の観測方法を知る貴重な機会になりました。(辻壮一郎)
★運用状況報告(2022/11/14~12/25)★
11月より、SVS(スーパーバイザーサポート)に新たな学生メンバーが加わりました。私もその一人です。昨年夏までSVSとして参加していたのですが、1年ほど運用からは離れており、この度再着任いたしました。実はこの間に、SVSの業務内容が新たに追加されました。 それは、「パス後ブリーフィングの進行」です。内容は以前の運用状況報告(2022年2月21日掲載分)にも記載されているので割愛しますが、当該運用で何が行われているのかをきちんと把握する必要があります。以前と比べると難しい業務内容となっていますが、探査機の運用に関する、より深い知識を得ることにつながっています。 さて、探査機の状況ですが、ここ1か月ほどはNASAのSLS打ち上げ延期に伴い、スケジュールを工夫しながら運用を行いました。12月に入ってからは、系外惑星観測のための手順登録も行いました。探査機の光学航法カメラ(ONC)を用いて系外惑星の観測を行います。今から観測結果が楽しみです!(藤田雅大)
★運用状況報告(2022/9/26~11/13)★
12月になり寒さが厳しい季節になってきました。はやぶさ2は引き続き宇宙空間を旅していますが、現在は地球よりも太陽に近い位置にいるため、寒さに凍えている我々とは対照的に暑そうにしています。今回はイオンエンジンシステム(Ion engine system、 略してIES)についてです。2022年11月14日に拡張ミッションIES第3期の運転が終了しました。写真はイオンエンジンを停止した際に撮影したIESチームの集合写真です。本期間の運用中には4つ搭載されているイオンエンジンのうち、Cのイオンエンジンの総運転時間が10,000時間を達成しております。その後、Cについては劣化の兆候がみえてきたことから、Bに切り替えて運用をおこないノルマを達成しました。さらに宇宙運用と並行して実施している地上試験では、寿命を律速している中和器が総作動時間80,000時間を超えてもなお正常に動いています。イオンエンジンをはじめとする電気推進機は、低い推力で長時間吹くことで大きなΔv (増速量、km/s)を得るので、寿命の長さが非常に大切となります。そのために、世界各国で寿命を長くしようと努力がなされているのですが、その中でも10,000時間や80,000時間動作させても壊れない電気推進機はなかなかありません。拡張ミッションでは地上試験では確認できなかった宇宙特有の劣化現象が見え始めてきました。一般に地上では宇宙環境を完全に再現できないことから、地上と宇宙との差異を検証し、原因究明と対策を行っています。 このように、はやぶさ2拡張ミッションで得られた様々な知見を活かして、DESTINY+を始めとする後継ミッションに貢献するように、さらなる長寿命化・高性能化のために研究開発が進んでいます。拡張ミッションでは2001 CC21には2026年夏にフライバイを行う予定であり、その後、2回の地球スイングバイを経て、最終目的地である1998 KY26には2031年到着予定です。イオンエンジンは、2023-24年に短期間での運転を予定していますが、次回の本格的な長期運転は2025年になります。3年後の厳しいノルマに備えて、地上での研究活動に頑張って参りたいと思います。(小磯拓哉)
★運用状況報告(2022/9/12~9/25)★
最近、激しい台風が日本を横断したことで騒ぎになっていましたが、はや2運用は特に支障なく行うことができました。ただ、台風によってはや2の運用に支障が生じる場合ももちろんあります。詳しいことは(2021/8/1~8/11)の大間々さんの報告を参考になされると良いかなと思います。 話が変わりますが、9/12(月)からの3週間の間はIES(Ion Engine System)運転が休止期間となり、前回の運用報告(2022/8/29~9/11)の時とは異なった状況となっていました。 イオンエンジンの休止に伴い探査機を地球指向姿勢に調整することができましたので、火曜・水曜でのフルパス運用では、HGA運転を行い、はや2にたまったデータを地上局に一気におろしています。 フルパス運用ははや2の可視時間を目一杯使った運用のことで、HGA(High Gain Antenna)は最も利得の大きいアンテナのことです。アンテナについては前回の報告にもありますが、(2022/4/5~4/24)の高木さんの報告に詳細に記載されていますね。 はや2の運用とは少し違った話になりますが、「リュウグウ」から持ち帰った試料から液体の水が発見されたことが2022/9/23(日本時間)付のScience誌上で発表され、最近話題になっていましたね。 地球外の天体から採集したサンプルから、液体の水を発見できたのは世界初の偉業ですから、宇宙に普段関わりのある方々はもちろんのこと、あまり宇宙に関心のない方々にもインパクトを与える喜ばしい成果となったのではないかと思います。 余談ですが、今回のScience論文の主著者である中村智樹教授は僕の学部生時代の指導教官の方でしたから、僕個人としても今回の成果をみて特別嬉しい気持ちになれました。今後のはや2の活躍にも期待していきたいところですね。(正木和馬)
★運用状況報告(2022/8/29~9/11)★
現在はイオンエンジンを運転しており、航行を続けています。 今回は普段の管制室での運用の様子について書いていこうと思います。 運用の体制は主に、SV(スーパーバイザー), SYSJ(システム), AOCSJ(姿勢系), IES(イオンエンジン), TKSC(筑波管制), CMDR(コマンダー), SVS(スーパーバイザーサポート)で行っています。基本的にはSVさんが運用指示をCMDRさんに送り,CMDRさんがコマンドとして探査機に送る流れです。その中で、随時、専門のSYSJ, AOCS, IESの指示を仰ぎます。常に大人数で行っているというイメージがあるかもしれませんが、最近は運用が平和なことやコロナ対策もあり、実際に管制室で対応するのは、SV, CMDR, SVSの3人体制となることが多いです。 運用は午前中に行い、昼頃に終わることが多いですが、運用内容によって運用時間は変動します。8/31の運用も久しぶりの5時からの早朝運用でした。アルテミス計画の打ち上げ予定があり、搭載されているOMOTENASHI/EQUULEUSの運用にはやぶさ2も使っているMDSS54アンテナを確保する必要があるため、はやぶさ2の運用の方が早朝になりました。打ち上げ直後やタッチダウンなどのクリティカル運用は優先順位が高いので、そちらが優先というわけです。結局この日はアルテミス計画の打ち上げは延期になり、はやぶさ2の運用時間を普段の時間に遅らせることもできたのですが、直前での登録済みタイムラインの変更を避け、人員配置の混乱を避けることを理由に、そのまま早朝運用になりました。このようにして運用時間は決定されるのです。もちろん、はやぶさ2の地球と太陽との位置関係によっても運用時間は変動していきます。 運用時間の決め方からも、運用がどこまでも探査機・ミッション優先であることを感じます。早朝からの運用は少し大変ですが、はやぶさ2ファーストで今日も運用が続いています。(髙木公貴)
★運用状況報告(2022/8/15~8/28)★
8月も後半となりましたが、まだまだ暑い日が続いています。はやぶさ2は現在イオンエンジンを動作させながら引き続き宇宙を旅しています。 はやぶさ2にはアンテナ利得の異なる3種類のアンテナを使っています(運用状況報告(2022/4/5~4/24)を参照)が、最近はイオンエンジン運転中により探査機姿勢が決まってしまっているため、1番利得の大きいHGAが使えずに2番目に利得の大きいMGAを使った通信をしております。さらには、はやぶさ2と地球の距離がとてつもなく離れているため、その電波強度は非常に小さくなってしまいます。強度の小さい電波で通信するためには通信速度を下げざるを得ず、最近のはやぶさ2は地上局と1024bpsの通信速度で通信を行うことが多いです。「スマートフォンを使いすぎて通信制限にかかってしまった」という経験がある方も多いと思いますが、通信制限にかかったスマートフォン(おおよそ100Kbps程度の通信速度)の1/100の速度でしか通信できないと考えると、非常に遅いことが伝わるかと思います。はやぶさ2からは観測機器による観測データや、機器の健全性を確かめるためデータなど、様々なデータを地球に送る必要があるのですが、それだけ通信速度が遅いと、そのすべてを一斉に送ることが難しくなります。そのため、どのデータを優先的に送信して、どのデータは後回しにするのかの判断が必要となります。例えば最近はイオンエンジンを運転させていますが、エンジンの現在の状況が分かりやすいようなデータを優先的に地球に送り、その他の動作させていない機器のデータは後回しにすることが多いです。これにより、エンジンが健全に動作しているのかどうかを確かめやすくなります。 このように、通信速度が非常に遅いという厳しい制限がありながらもはやぶさ2が健全に動作することを保証するために、様々な工夫をしながらはやぶさ2と通信を実施しています。(小磯拓哉)
★運用状況報告(2022/8/1~8/14)★
8月に入り猛暑が続いていますが、はやぶさ2の運用は日々行われています。先日はやぶさ2のメインエンジンであるイオンエンジンの作動時間が1万時間を超えたというニュースを目にし、同じ推進機の研究開発を行っている人間としてすごいなと思うばかりです。 さて、今回ははやぶさ2拡張ミッションの航路選定、科学的意義の2点を簡単に記載していきます。 はじめに拡張ミッションではやぶさ2は打上げから10年以上長い期間宇宙を旅することになります。現在は、日本の太陽系天体探査機の中では「ハレー彗星探査試験機さきがけ」に続いて2番目に長い宇宙航行期間であり、拡張ミッションが完結すれば最長の長さになります。 これほど長い期間宇宙航行を行ったことはなく、将来、遠くの天体(木星や土星など)を探査することになった場合の貴重な前例となります。 仮に途中ではやぶさ2に搭載されているエンジンやカメラなどの観測機器に問題が発生したとしても貴重な実証データとなり、今後の宇宙開発に大きく役立ちます。そのため拡張ミッションを行うことは今後の宇宙開発を大きく発展させることができるメインミッションにも負けない重要なミッションです。 本題に戻りまして、はやぶさ2の拡張ミッション航路は「EVEEAシナリオ(Earth→Venus→Earth→Earth→Asteroid)」と「EAEEAシナリオ (Earth→Asteroid→Earth→Earth→Asteroid)」の2パターンが候補として挙がっていました。シナリオの選定評価項目として熱成立性、イオンエンジンの運転条件、シナリオ成立性の3つの観点から選定され、太陽距離範囲から逸脱が少なく、搭載機器が正常温度範囲を超えず、小惑星フライバイが実施できない場合にもその後の地球スイングバイに支障がなく、軌道計画に大きな変更が必要のないEAEEA シナリオが拡張ミッションでは選択されました。ここでEAEEAシナリオで大きなイベントは巡行運用、小惑星(2001 CC21)フライバイ、地球スイングバイ1、地球スイングバイ2、目標天体(1998 KY26)ランデブーの5つあり、それぞれに工学、理学成果が期待されています。 以上のシナリオを踏まえてえ拡張ミッションの科学的意義は大きく3つ「10年を超える長時間クルーズ、小型小惑星の近接高速フライバイ観測、高速自転する微小小惑星への世界初のランデブー」が挙げられます。1996 KY26サイズの小惑星は地球に衝突する可能性があるため脅威となり得る天体ですが、このような微小小惑星の強度などの力学特性や、自転状態、物性などはよくわかっていないことからはやぶさ2によって詳細観測が行うことができれば、万が一小惑星が地球に接近した場合でも、軌道をそらす計画を立てることができ、地球を守る「プラネタリー・ディフェンス」の重要なデータになります。 以上のことから拡張ミッションはとても重要なミッションであることが言えます。 本記事を書いていてはやぶさ2は新しい発見を行い、さらに地球まで守るという大変な仕事を行っており、今後の活躍に期待すると同時に日本の技術力があるからこそできるミッションであるなとすごく感銘を受けました。 無事、目的地に到達できるように自分も全力で運用のサポートを行ってきたいと思います。(松本祐斗)
★運用状況報告(2022/7/18~7/31)★
はやぶさ2のプロジェクトチームが2022/6/30に解散してから、早くも1カ月の月日が経過しました。解散したとはいえ、現在でも変わらず管制室でははやぶさ2探査機の状態監視・観測データの取得をする日々が続いています。今後の新体制では、新たに2つの小惑星「2001 CC21」と「1998 KY26」を目指す拡張ミッション「はやぶさ2#」の達成に向けて運用が続けられていきます。「はやぶさ2#」は地球に衝突する可能性のある小惑星探査を目的としており、#はSmall Hazardous Asteroid Reconnaissance Probeの頭文字を由来としています。私自身は命名に関わっておりませんが、ネーミングセンスの光る趣向の凝らされた名前だなという印象を受けました。皆様はどう感じたでしょうか。 現在はやぶさ2の総飛行距離は70億km、総飛行日数は3000日に迫ろうとしています。また、はやぶさ2にはA,B,C,Dと4つのイオンエンジンが搭載されていますが、そのうちのイオンエンジンCの稼働時間が7月末に1万時間を突破しました。地球上に生きる我々の身の回りを見渡してみても、メンテナンス無しでこれほどの長期間にわたって現役稼働を続けている機器はなかなかないと思います。リュウグウからのサンプルリターンを果たし、既に十分な期間で仕事を全うしてくれたはやぶさ2ですが、これからもさらなる活躍が見込めると思うと、自分も見習わなければと身の引き締まる思いになりますね。(正木和馬)
★運用状況報告(2022/6/20~7/4)★
6月29日午後2時から相模原キャンパスではやぶさ2の記者会見がありました。その日もはやぶさ2の運用は行われており、朝早くから記者会見直前の1時54分まで、イオンエンジンの監視や観測データの取得などを行いました(私もSVSとして勤務していました)。ちなみに、はやぶさ2の管制室は記者会見会場(宇宙科学探査交流棟)のすぐ近くにあり、M-VロケットとM-3SII ロケットの展示を挟んだ反対側の棟にあります。はやぶさ2は現在、太陽からおよそ1auの距離を飛行しており、6月28日からはイオンエンジンを作動させています。拡張ミッションの運用面では特に大きな変化はありませんが、7月・8月にはそれぞれ数回、マドリッド局のアンテナを用いた運用が行われます。地球の自転の影響により、はやぶさ2は美笹及び臼田の地上局だけでは24時間連続した追跡・管制ができません。そのため、打ち上げ後の初期運用、地球スイングバイ運用、小惑星接近・離脱運用、地上再突入運用などの連続運用が必要なクリティカル運用時には、マドリッド局などの海外地上局の追跡・管制支援を受けます。今回はクリティカル運用ではないですが、いつ緊急事態が起きても迅速に対応ができるよう、定期的に海外局を用いて運用を行います。防災訓練と同じですね。はやぶさ2の運用時間は、探査機との位置関係を考慮して決められています。最近の日本の地上局を用いた有人運用は、日本標準時で7時や9時からの運用になりますが、スペインにあるマドリッド局は、はやぶさ2との位置関係が日本とは異なるので、日本標準時で15時あたりの時刻から運用が行われます。スペインとの時差は8時間(現在はサマータイムで7時間)なので、スペインでは日本と同じような時刻で運用が開始されるようになっています。ちなみに、マドリッド局はスペインにありますが、ESAの地上局ではなく、NASAが所有する地上局の1つです。また、NASAが所有する地上局は他にもゴールドストーン局(アメリカ)やキャンベラ局(オーストラリア)などがありますが、はやぶさ2はこれら2つの地上局からも支援を受けています。(島崎拓人)
★運用状況報告(2022/6/6~6/19)★
はやぶさ2は引き続き順調に宇宙を航行しています。先日、はやぶさ2が小惑星リュウグウより持ち帰ったサンプルから23種のアミノ酸が発見されたという内容の論文が出され、世界に衝撃を与えました。拡張ミッションの目的地である1998 KY26ではどのような新発見があるのか、とてもワクワクしております。 さて、はやぶさ2の運用中には、常にテレメトリデータと呼ばれる衛星の状態を表しているデータを監視しています。衛星内の温度や、各機器の電源on/offの状況、回路の電流・電圧値、衛星の姿勢、ソフトウェア内部の変数の状況など、多種多様なデータが衛星から送られてきます。これらすべてを合わせると数千もの情報があり、それらすべての値に異常が無いか監視する必要があます。しかしあまりにも大量の項目があるため、人の力だけでそのすべてを確認するのは現実的ではありません。そこで、事前にすべてのデータに対して正常な範囲を設けておき、その範囲を超えてしまっているか否かをコンピュータに判断させることで異常の有無を検知しています。範囲を超えたデータがあれば知らせが来るようになっており、さらには入感・消感時には「モードチェック」と呼ばれる動作によって、それらの範囲を超えているデータが無いかを入念にチェックしています。ただし、仮に範囲を超えているデータがあったとして、コンピュータにはそれが深刻な異常なのか、想定内の逸脱なのかは判断できません。最終的に判断するのは人間です。このように大量のデータを処理するのが得意であるコンピュータと、あるデータがどのような意味を持っているのかを解釈するのが得意な人間が、お互いの長所をうまく組み合わせて探査機の安全を見守っているのです。(小磯拓哉)
★運用状況報告(2022/5/24~6/5)★
6月になり、2022年も残り半分ちょっとです。日々時間が立つのは本当に早いなと思っております。 さて、現在もはやぶさ2は順調に宇宙航行をしており、探査機と太陽の距離は1au(地球と太陽の平均距離)です。 今回は我々SVSが行う仕事の一つであるデータの印刷について簡単に説明したいと思います。 日々、はやぶさ2から計測・観測したデータや、はやぶさ2本体の状態データが送信されてきており、我々は、はやぶさ2から送られてきたデータは電子データでの保存だけではなく、バックアップの意味も込めて紙に印刷して保管しています。 紙に印刷する利点としては検索の速さです。日々はやぶさ2は温度や姿勢などの機体の状態が変化します。そのため、機体の状態に合わせてパス内容を変更したりすることがあります。その点で例えば「あの日のあの時間のどこどこの温度は何度なのか」や「このデータは何日前から再生しているのか」などをチェックするには電子データよりも紙データの方が日ごとにまとめられているため探しやすく利便性が高いです。そのため、紙データで保管しています。ちなみにですが、紙でのデータ保存は初代はやぶさの運用時から行われており、伝統的にそうしています。印刷を行うタイミングとしてはAOS、LOSチェック(はやぶさ2の各種状態チェック)やデータレコーダのアドレス取得のコマンドを送信した後です。特にアドレス取得のコマンドでは、コマンドが送信されてから往復伝搬遅延を考慮してから印刷する必要があります。 それはこちらから「データを送信してださい」というコマンドを送ってからはやぶさ2にコマンドが届き、はやぶさ2が地上局にデータを送るため、はやぶさ2との距離往復分の時間を待たないとデータが更新されないからです。 今までの記録は運用室に保管されており、私が確認した限りでは大きなファイルが27冊分(もっとあるかも、、、)保管されています。 はやぶさ2の運用は今年で9年目になります。9年という時間と大量にある運用記録を見ると衛星運用の大変さを強く感じるとともに、はやぶさミッションの一端を担えていることに喜びを感じながらに私は日々のパスに臨んでいます。 次の目的地到達には約10年かかりますが、はやぶさ2のミッションが終わるころにはファイルの数がさらに多くなっていることを願っています。(松本祐斗)
★運用状況報告(2022/5/9~5/23)★
地球よりも内側の軌道を航行していたはやぶさ2ですが、現在は太陽と探査機の距離が1.01 auと、地球と同じくらいの軌道にまで戻ってきました。安定した運用が続いており、運用現場も落ち着いた日々が続いています。ということで今回ははやぶさ2のパスの基本の流れについて、簡単にご紹介します。まずは運用前のブリーフィングで、各担当者の配置や運用の流れなどを確認します。運用が始まり、探査機からのデータを受信すると、衛星の状態確認を行います。ここでSVSがテレメトリを読み上げるので、いつも緊張してしまう場面です。数十のパラメータを一つ一つ読み上げ、異常がないか確認していきます。といっても自分はすべてのパラメータの意味を理解しきれていませんが、少しずつ分かることを増やせるようにしたいです。同時にアンテナの感度などの確認も行います。自分は電気や制御系ではないため、dBという単位をいつも珍しく感じてしまう場面です。その後通信レートを設定し、DR再生(DR=データレコーダ)というコマンドで、はやぶさ2の内部にある観測データを順番に地球に送っていきます。限られた時間のなかで、どのデータから優先的に送っていくかはSVが決定し、以前受信しきれなかった分を先に送るなど、臨機応変に対応します。RNG計測(RNG=レンジ)といって、地球から探査機までの距離の測定も行います。この結果に基づいて、探査機の軌道の微調整を行うのです。探査機が、運用していた地上局から見えなくなり消感する少し前には、入感時と同様に内部の状態確認を行います。そして運用が終了すると、最後に振り返りのブリーフィングを行って1日が終わります。以上が最も基本的な内容で、運用に応じて様々なコマンドの送信等が追加されていくのです。(玉井亮多)
★運用状況報告(2022/4/25~5/8)★
5月に入り、2022年は早くも3分の1が過ぎました。最近は、イオンエンジンを稼働していないため単独運用が多いですが、はやぶさ2はゴールデンウィーク中も運用しています。今回は、はやぶさ2で用いられている様々な時刻についてお話しします。はやぶさ2の運用時間は探査機と地球との位置関係で決まりますが、現在は5時や9時などの早朝から昼にかけて行われてます。時には深夜2時半などかなり早くに始まる運用もありますが、学生で構成されるSVSは朝5時以降の勤務となります。「深夜2時」などと書いているのは日本標準時(JST)における深夜2時のことですが、海外のアンテナを用いた運用において現地時間との齟齬をなくすため、はやぶさ2の運用室はJSTよりも9時間遅れている協定世界時(UTC)を用いて稼働しています。UTCは世界共通の標準時として定められている時刻であり、イギリスの標準時であるグリニッジ標準時(GMP)にほぼ等しくなるような時刻です。したがって、運用室はイギリスと同じような時刻で稼働していることになりますが(実際には、イギリスはサマータイムを導入しているので春と夏には1時間のずれが生じます)、現在のはやぶさ2の運用室には窓がなく、モニターに表示される時刻の多くはUTCなので、運用室で働いている時にはあたかもイギリスにいるような時間感覚になることがあります。運用側ではこの通りですが、交信している探査機には独自の時刻があり、探査機から送られてくる全てのデータには探査機内で刻まれた時刻の情報が付加されています。詳しくは「こちらはやぶさ2運用室:No.17」、「こちはや拡張ミッション編:No.1」に記載されていますが、探査機内の時刻は探査機内に搭載された時計により刻まれており、技術的な都合によりおよそ4年3ヶ月でリセットされる仕組みになっています。また、約31ミリ秒(1ミリ秒は1000分の1秒)ごとにカウントしているため、日時として表すには時計がリセットされた日時まで遡って計算する必要があります。この時計のリセットは過去に2度(リュウグウに到達する前の2017年9月5日、拡張ミッション開始後の2021年5月18日)行われています。このように、はやぶさ2の運用では、我々が普段日本で生活している上で目にすることのないような時刻に接することができます。(島崎拓人)
★運用状況報告(2022/4/5~4/24)★
現在もはやぶさ2は、引き続き順調で、現在の太陽と探査機の距離は0.94auです。 また、運用は午前中に行なっていますが、探査機の位置関係が変わり、一時間程、運用開始時間と終了時間が遅くなりました。 探査機が地上とのデータのやり取りの際、探査機側で使うアンテナには、いくつかの種類があります。具体的には、低利得アンテナLGA(Low Gain Antenna)、 中利得アンテナMGA(Medium Gain Antenna)、 高利得アンテナHGA(High Gain Antenna)という利得の異なるアンテナです。取得するデータの量やアンテナの温度などの運用状況に応じてアンテナを切り替えています。最近は基本的にLGAとMGAを切り替えて使っていましたが、また久しぶりにHGAも使い始めました。このHGAというのは、探査機上面に太陽電池パドルと同じ方向を向いて衛星構体に固定された大きなアンテナであるため、地球に向けて通信に使えるタイミングは限られています。しかし今は、太陽と地球・探査機の軌道の位置関係からHGAを使うことができるのです。そのため、地球の地上局にHGAが向き、なおかつ太陽光発電ができる範囲で姿勢制御を行ったのち,HGAでの通信に一時的に切り替えます。ここで、HGAを使うメリットというのは、通信レートを上げ、探査機に保存された観測データを一気に地上局に降ろせることです。現在、はやぶさ2にたくさんの観測データが溜まってしまっているので、HGAを使って一気にデータを地球に送ります。MGAでは1kbpsでしか出せなかった通信レートもHGAを使うことで32kbpsもの通信レートを出すことができるのです。こういうわけで、今週からは週に一回HGAを使っていくことを計画しています。(高木公貴)
★運用状況報告(2022/3/23~4/4)★
前回の運用状況報告時に引き続き、はやぶさ2は太陽に比較的近いところを飛行中です。私がはやぶさ2のSVSのリサーチアシスタントを始めてから約1年が経ちました。初めてSVSの仕事をした時は、はやぶさ2の運用という大事な役割を、はやぶさ2のことをなにもわかっていない自分が担って問題ないのかと不安になったことを覚えています(今も運用の途中でそれまで馴染みがなかった信号が出た時は不安になります)。基本的にはSVの方が丁寧に仕事を教えてくださいますが、SVSが一人でこなさなければならない業務が2つあります。それは「テレメトリの読み上げ」と「パス後ブリーフィングの進行」です。テレメトリの読み上げでは、運用開始時と終了時の二回、探査機の各機器の運用状況やはやぶさ2のコンディションを確認する、いわばはやぶさ2の健康状態の確認を行います。パス後ブリーフィングでは運用後の振り返りをします。こうした業務以外の時間ははやぶさ2から送られる信号をホワイトボードに記入することがメインであり、信号が送られてこない間は待機の時間ができます。管制室にははやぶさ2の目的や構成するすべての機器の設計図および解説が書かれた分厚い記録冊子があります。待機の時間はこの本を読んではやぶさ2に対する理解を深めました。ちなみに本は2冊あり、それぞれ厚さが10センチほどあるためとても全ては読みきれませんが、それだけはやぶさ2に多くの技術、多くの人の想いが込められているということを実感します。(高橋直也)
★運用状況報告(2022/3/8~3/22)★
はやぶさ2はこれまでの報告通り、順調な定常運用を続けています。日々の運用業務では様々なコマンド入力や数値等の変更操作が行われています。送信されるコマンドは、事前に機械的に検証された上で、担当者によって検証確認され承認版として発行されます。さらに当日の運用担当者とコマンダが、間違いが起こらないように操作内容を口に出してお互いに確認をしながら、ハイテンポで運用が進んでいきます。実際に同じ運用室の中でこの現場に立ち会うと、かなりの緊張を覚えるものです。大学の研究をする時とは全く雰囲気が異なるので、運用に参加する際には意識的に自分のスイッチを切り替える必要があるなと感じます。そんな緊張感のある現場でも、ベテランの方々は、我々学生や若手メンバーへのフォローや豆知識の伝授を大切にしてくれます。学生の質問に快く答えてくださるのはもちろんのこと、ホワイトボード等への記録内容も適宜確認しながら、間違いがあれば速やかに指摘してくださるので大変心強いです。もうまもなく年度末を迎え、メンバーが入れ替わっていく時期だと思いますが、遠い宇宙で頑張っているはや2を支えるという使命のもと沢山のメンバーが集い、様々な技術が伝承されていくというのはとても素敵なことだなと最近はしみじみと感じています。(松谷栄祐)
★運用状況報告(2022/2/22~3/7)★
これまでの運用状況報告のとおり、はやぶさ2は引き続き太陽に近い場所を航行中です。先日は0.77auの近日点を通過し、温度関連の対応が多々ありました。ちなみに0.77auは打ち上げ前の予定よりも太陽に近いものだそうです。近日点を通過後は太陽から徐々に離れていきますが、まだまだ地球軌道よりも内側の航行が続くので安心できません。一方地球に目を向けてみれば、暦はすでに3月、今年度もあと1か月を切りました。私自身もはやぶさ2のSVSを始めてから、またそもそも宇宙研に来所してから1年が経とうとしています。初めて運用に参加した時には、相模原で打ち込んだコマンドが、美笹局などのアンテナを通して1億km先にあるはやぶさに届くので、魔法のようにすら感じてしまいました。SVSをしながら色々なお話を聞いているとはいえ、知らないことは尽きません。はやぶさ2にたくさんのことを教わった1年でした。(玉井亮多)
★運用状況報告(2022/2/8~2/21)★
前回の運用状況報告時に引き続き、はやぶさ2は太陽に比較的近いところを飛行中です。そのような高温時には、例えば搭載機器の一部に使用時間の制限があったりしますが、運用は順調に行われています。ところで、私がはやぶさ2のSVSのリサーチアシスタントを始めて、もうすぐ1年になります。時が経つのはあっという間だと感じるとともに、右も左もわからず、管制室でたくさん冷や汗をかいていたことを懐かしく思い出す今日この頃です。今回は初心に返る意味もこめて、(意外と今まで触れられてなかった?)「運用の中でSVSにスポットがあたるタイミング」について2つ書いてみます。まずは、「テレメトリの読み上げ」。運用開始時と終了時の二回、探査機に異常がないかの確認のため行うのですが、これはSVSの業務です。読み間違えてしまわないか、いまだに緊張します。もう一つは「パス後ブリーフィングの進行」。運用後の振り返りをします。その日何を行っていたか理解していないとコメントできないので、わからないところはSVさんやコマンダーさんに事前に確認しておきます。おかげで、少しずつ運用に関する知識がついてきた気がします。以上が毎回必ず訪れる、私の緊張ポイントでした。(栗原明稀)
★運用状況報告(2022/1/25~2/7)★
現在、はやぶさ2は太陽との距離が打ち上げ以来最短の距離を飛行しています。太陽に近いということは太陽からの熱のエネルギーをたくさん受けることになります。ここで、宇宙機設計で大きな問題の一つとして熱設計があります。一般に人工衛星システムは、構造系、姿勢制御系、電源系、推進系など衛星が衛星として成り立つための基本機能を分担するバス系サブシステムと、その衛星が打ち上げられ、運用される目的となる通信、観測などの機能を分担するミッション系サブシステムから構成されます。熱制御系は前者のバス系サブシステムに属し、衛星に搭載される機器の温度環境を全運用期間中、各機器に対して定められている許容温度範囲に維持する機能を分担しています。つまり熱設計がミッション成功の鍵の一端を担っているということです。熱設計の第一ステップは、その衛星が打ち上げから運用を経て寿命を終えるまでに遭遇する熱環境条件を定量的に把握することです。衛星の軌道および姿勢条件に基づいて各運用段階における衛星各部への太陽光、地球外赤外輻射などの外部熱入力を解析し、また、搭載機器の発熱特性に基づいて種々な運用モードにおける衛星内部の発熱条件を明確化します。これらの解析により、衛星の最悪熱環境条件が定まることで、熱設計のベースデータとなります。次に、熱環境条件解析を参照しつつ、要求性能を持つ熱制御系を構築するための設計検討を実施していきます。この検討では、放熱面の位置および面積を決定し、使用すべき熱制御素子の選択および配置、ヒーター容量の設定などをシステムから配分された重量および電力の制約の下で行います。同時に他のサブシステムについてもその機能、性能要求に対応する設計検討が進められ、衛星システムとしての全体形状が具体化していきます。熱解析など様々な工程を行い熱設計が完了し衛星が組みあがると最後に熱真空試験を行います。製造された衛星本体を丸ごと真空環境を模擬できるスペースチャンバーに入れて、予測している熱環境条件を模擬をし、要求を満たしていることを確認します。この試験を通過して衛星は宇宙へ飛び立ちます。しかし、実際に衛星を運用する中でわかることも多く、例として、はやぶさ2に搭載されているイオンエンジンンの試験では、ノミナルミッションでは安全率をかけて作動温度範囲が狭く設定されていました。しかし、拡張ミッションに入り、機器の実力値がわかるようになり、作動できる条件の幅が広がりました。このような日々の運用による宇宙実績が、今後の拡張ミッションの自由度を高めるだけでなく、後継の宇宙機開発に活かされることになります。今回は熱設計に焦点を当てて述べましたが、宇宙機設計において検討すべきことはほかにもまだまだあります。気になる方は調べてみてください! 最後に、はやぶさ2は、拡張ミッションで設計寿命を超えようとしていますが無事に次の目的地である未知の小惑星1998 KY26に到達し、新たな発見をすることを願っています!(松本祐斗)
★運用状況報告(2022/1/11~1/24)★
今年は平年よりも厳しい寒さで、宇宙研がある相模原においても2週間前にまとまった積雪がありました。はやぶさ2の運用においては、そのような気象条件によりその日の運用スケジュールが変更されることがあります。風が強いことが原因として多い印象ですが、昨年大晦日の美笹局のアンテナを用いた運用では、何らかの原因で通信レートがぐんぐん低下しました。その後も通信レートは回復することなく、当初予定されていたRNG計測(RNG=レンジ:探査機までの距離)はキャンセルされました。このような通信レート低下の場合、大抵は局から原因がレポートされますが、その日はアンテナ面への積雪が原因であるとのことでした。実際、美笹局のアンテナは長野県佐久市の山中(軽井沢から数十キロ南西)に位置しており、その日の天気は雪、現地の気温は-10℃を下回る極寒の環境での運用でした。首都圏では雪が降るたびに交通インフラの障害が話題に上がりますが、地球のみならず宇宙のインフラにも影響することを実感しました。(島崎拓人)
★運用状況報告(2021/12/28~2022/1/10)★
トップページの軌道図からもわかる通り、現在はやぶさ2は地球軌道よりも大きく内側の、太陽に近い軌道を航行しています。これまで以上に太陽に接近しており、そのため探査機の日が当たる場所は特に非常に高温になってきます。はやぶさ2に搭載される機器には適切な動作が保証される温度範囲があり、各機器の温度がその温度範囲を外れそうになると、テレメトリを監視しているPC上ではショッキングレッドの警告(SOS)が提示されます。はや2からのSOSに呼応して、管制室では彼を窮地から救うべく、対応策が練られます。私はSVSの業務中、その対応策としてのヒーターの設定変更や、リアクションホイールを用いた姿勢の変更(マニューバ)などを行う様子を見学していました。しかし私も所詮は学生なので、その際のSVやコマンダーの方々の議論を盗み聞きし、略語の意味を調べて話についていくことで精一杯。ゆくゆくは向こう側に立ちたいなあと思う、そんな毎日です。(中澤淳一郎)
★運用状況報告(2021/12/14~12/27)★
日々の運用でははやぶさ2の姿勢やイオンエンジンの状態をチェックしているわけですが、はやぶさ2には定期的に「姿勢マヌーバ」と呼ばれる操作が行われます。これははやぶさ2の姿勢を目標方向に変更する操作のことで、正しい姿勢マヌーバを行うことで地上局とはやぶさ2との通信におけるビットレート(bps)を上げることができます。ビットレートとは一秒あたりに何ビットのデータが送受信されるかを表す数字のことです。これが高いほどより多くのデータを短い時間でやりとりできるということですね。2021/12/17(金)の運用では姿勢マヌーバによって512bps→1024bpsまでビットレートを上げることができました。少し前までは姿勢マヌーバは週に一回火曜日に行われていたのですが、最近では週に2回、火曜日と金曜日に行われているので、運用担当の際に偶然立ち会うことができました。姿勢マヌーバについては一緒に運用を担当してくださったSV(Supervisor:監督者)さんが丁寧に教えてくださったので、はやぶさ2スタッフの温かみを感じることができたように思いました。(正木和馬)
★運用状況報告(2021/11/30~12/13)★
現在はイオンエンジンの定常航行を継続しています。このように目的地まで向かう多くの運用は「通常運用」と呼んでいます。通常運用において管制室では、運用指揮を執るSV、はやぶさ2に命令を送信するコマンダー、運用支援を行うSVSの基本3名+αで運用を行っています。これに対し、小惑星タッチダウン、地球帰還(カプセルリエントリー)等の重要な運用が行われる場合は「特殊運用」や「クリティカル運用」と呼んでいます。特殊運用では各搭載機器を複合的に運用する必要があること、想定外の事象が生じても直ちに対応する必要があることから、各機器のエキスパート数十名が管制室に集いミッション遂行を支えます。これまで私はIES往路終了やタッチダウン、小惑星離脱、リエントリー等の多くの特殊運用に参加させていただくことができました。どの特殊運用でも管制室には非常に強い緊張感があり、1つ1つのゲートチェック(各目標の成否判定)を固唾を呑んで見守ります。特殊運用をオールグリーンで完了したときの拍手、歓声はまさに宇宙探査のダイナミズムを眼前に感じる瞬間です。興味のある方は、YouTube:JAXA相模原チャンネル( https://www.isas.jaxa.jp/tv_isas/)をご覧ください
(森下貴都)
★運用状況報告(2021/11/16~11/29)★
地上局とはやぶさ2との間の通信にはさまざまなモードがあり、運用内容に合わせてモードの選択を行なっています。衛星の姿勢やイオンエンジンなどの状態監視のためにリアルタイムモニタをしているわけですが、それとは別に、運用をしていないときの状況も確認する目的で、DR再生を行っています。最近の美笹局の運用では2kbps程度のレートで通信をしており、このうち1kbps分をリアルタイムモニタ用に、残りの1kbps分をDR再生用にといった具合で分配しています。DR再生で確認できるデータは、リアルタイムで確認することができるデータほどの時間分解能を持ちませんが、後から過去のデータを遡って確認することができます。そして、運用内容に応じ、リアルタイムデータを詳しく見たいときには、リアルタイムデータの通信に分配する割合を多くしているというわけです。こうした状況に応じた適切なモード選択はSVでも大変だということをお聞きしました。はやぶさ2という実機運用において、柔軟な対応が必要とされることを感じます。
(高木公貴)
★運用状況報告(2021/11/2~11/15)★
今回は、日々の運用で必ず操作する、探査機の「システムタイマー機能」についてご紹介します。リスクヘッジの考え方は日常生活や社会の様々な仕組みにおいて大切ですが、機器を直接触って修理することができない宇宙ミッションでは、あらゆる数値を絶えず計測したりシステムを冗長化したりと、万が一への備えがより重要視されます。はやぶさ2探査機の「システムタイマー機能」もこのリスク管理に関連する仕組みの一つです。現在用いているシステムタイマーとは、はやぶさ2が常に約1週間のカウントダウンを行っているタイマーのことです。運用が行われた日は毎回、このタイマーをリセットするコマンドを送信することで、カウントダウンをスタートに巻き戻しています。つまり、もしこのタイマーがゼロになれば、それは通信が1週間途絶えてしまったことを意味します。するとはやぶさ2は「地球からの音沙汰がない!異常事態だ!」と判断し、自動で無変調や無指向性アンテナへの切り替えを行い、地球との交信を試みることだけに専念します。(勿論厳密に言えば、「タイマーがゼロになったら~~してください」というプログラムが予め組まれている、ということです。)日々このタイマーをリセットするコマンドを送信し、緊急モードへのカウントダウンを振り出しに戻すことで、地球から約1億km離れて太陽の周りを航行するはやぶさ2に、いわば「ちゃんと見守っているよ!」と伝えているわけです。
(都甲 慶)
★運用状況報告(2021/10/19~11/1)★
はやぶさ2の航海はその途方もない距離がよく取り上げられますが、その速度もとんでもなく速く、現在の対地球速度は秒速23kmほどです。そのうち視線方向の速度はこちらに向かって秒速1kmほどで、
このような視線方向速度においては探査機と通信する際のドップラー効果が無視できなくなります。ドップラー効果とは波の発信源と観測者の間に相対速度があると波の見かけ上の周波数が変わる現象です。救急車のサイレンがこちらに近づく場合と遠ざかる場合にピッチが変わって聞こえるのは音波に対するドップラー効果です。電波も波の一種なので、地球に対して視線方向に速度を持つはやぶさ2は地球のアンテナと送受信する電波の周波数がずれることになります。確実に通信するためには正確に送受信周波数を把握する必要があるので、運用中はこのドップラーシフトを補正した上で探査機と通信を行っています。
(山田修平)
★運用状況報告(2021/10/5~10/18)★
運用中には様々な言葉をローマ字2-5文字程度で略した略語が多用されます.例えば「イオンエンジンシステム」を”IES”と呼んだり(Ion Engine Systemの略),その日の運用の監督者のことを”SV”と呼んだり(“Supervisor”の略)します.これらの略語を集めた略語集には,なんと350個以上の略語が掲載されています.これだけ数が多いと,そのすべてを覚えることは困難です.私が初めてSVS(監督補助者,”Supervisor Support”の略)として運用に携わった際には,略語の多さ故に会話についていくことが出来ませんでした.徐々に重要な略語は覚えてきましたが,今でも時折初耳の略語が出てきて混乱することがあります.略語の多さからもはやぶさ2がいかに複雑なシステムの集合体なのかが分かります.
(小磯拓哉)
★運用状況報告(2021/9/20~10/4)★
現在もはやぶさ2はイオンエンジンを運転させ、宇宙空間を航行しています。最近は「惑星間塵の観測」に向けた運用を行っています。これは、はやぶさ2搭載の光学航法望遠カメラ(ONC-T)で黄道光を撮影し、宇宙空間の物質移動や宇宙の形成史を調べるという新たな観測です。探査機に固定されているONC撮影のためには探査機を適切な方向へ向けなければなりません。そのため、イオンエンジン噴射時の姿勢とONC観測時の姿勢を切り替える姿勢マヌーバを実施しました。今回の運用を通じて、目標天体へ向かう道中でも最大限成果を得ようというプロジェクトチームの熱意を実感しました。
(今口大輔)
★運用状況報告(2021/9/6~9/19)★
現在はやぶさ2はイオンエンジンの定常運転を行っております。本運用期間も特に問題もなく通常通りの安定した運転ができています。はやぶさ2は定常運転時、温度などの探査機内部の状態の情報や観測結果(テレメトリ)をデータレコーダーに記録しています。我々はそれらのデータを再生し、はやぶさ2の状態を確認する「DR再生」と、地球からの距離や軌道を計測する「RNG計測」を行っています。イオンエンジン運転中はこれらの作業をほぼ毎日行い、はやぶさ2の旅をモニタリングしています。地球帰還後も、はやぶさ2はまだまだ健在です。今後も何の問題もなくミッションが続いていくことを願います。
(三平舜)
★運用状況報告(2021/8/23~9/05)★
2021年4月の美笹深宇宙探査用地上局の開局以来、はやぶさ2は主に美笹局を用いて探査機との通信を行っています。美笹局の開局以前にはやぶさ2や他のJAXAの探査機との通信を支えてきた臼田宇宙空間観測所の64mアンテナ(UDSC64)と比較すると小さい口径の54mアンテナ(MDSS54)を使用しています。UDSC64では「かぐや」などで用いられたSバンドとXバンドでの通信が行われるのに対し、MDSS54ではXバンドに加えて、約4倍高速なKaバンドの通信が実現し、UDSCと同等あるいはそれ以上の通信能力を持っています。8/31, 9/1の運用ではMDSS54のメンテナンスのためUDSC64を用いた運用を行いました。久々のUDSC運用を通じて、MDSSの通信能力の高さとデータ通信の重要性を再認識しました。
(平田佳織)
★運用状況報告(2021/8/09~8/22)★
はやぶさ2運用チームには、今年の前半から電子的なホワイトボードが加わりました。内容を簡単に保存できて賢いのですが、センサーが繊細で腕をホワイトボードにつけて書くと文字が消えてしまいます。私たちはその日の計画や天候、コマンド送信時刻など、運用概要をこのホワイトボードに書いて記録しています。例えば、はやぶさ2の姿勢を制御するイオンエンジンの設定変更コマンドや、はやぶさ2までの距離を計測するRNG(レンジ)というコマンドが予定通り送信されたことが一目で分かるようになっています。はやぶさ2への距離も日々更新されており、今日も宇宙の彼方へ向かっていることが分かります。
(中間洋子)
★運用状況報告(2021/8/1~8/11)★
日本は古来から台風による被害に悩まされてきました。それは現代のはやぶさ2でも同じです。台風の暴風ではアンテナの運用可能な風速の上限値を超えてしまい使用することができません。今回の運用状況報告ではそんなときの対応例を紹介いたします。8/10に日本に台風9号が上陸し日本列島に沿って北上していきました。この日はもともと長野県の美笹にあるアンテナを使った運用を予定してましたが、台風の暴風下でアンテナを使用することができませんでした。そこで台風が既に通過している鹿児島県の内之浦にあるアンテナを使い交信することにしました。このアンテナでは既に他の衛星が運用されていたので入感時間を3時間遅らせる必要があり、かつ、アンテナの口径も34 m と美笹の54 m に比べて小さいので、取得できる情報量が少ないという問題がありました。そこで衛星状態を監視するための必要最小限のデータだけに絞って受信することで対応しました。このようにはやぶさ2の運用では宇宙だけでなく地上の環境にも大きく左右されてしまいます。迅速かつ柔軟に対応することで安全に宇宙の最先端の情報を取得する旅を続けているのです。
(大間々知輝)
★運用状況報告(2021/7/12~7/31)★
引き続きイオンエンジンの運転を行っています。現在は4台のイオンエンジンのうち、どの2台の組み合わせで運転するのが良いか性能を確認しつつ、電圧等の設定値を微調整しながら運転中です。最近の運用では、打上以来イオンエンジン取り付け面の汚染や損耗の様子をモニタしていたQCM(水晶振動子)が寿命を迎え、QCM運転停止のコマンドを打ちました(QCM、長い間お疲れ様でした!) 。拡張ミッション達成のため、運用中も試行錯誤しながら探査機を見守る毎日です。
(服部華奈)
★運用状況報告(2021/6/28〜7/11)★
現在も引き続きイオンエンジンの定常運転を行っています。この時のはやぶさ2の姿勢というのは、イオンエンジンで加速したい方向を向いた姿勢に変更されています。エンジン運転前と後で太陽光によるはやぶさ2への影響が異なるので特に厳しくチェックしています。今回の運用では、今の姿勢で問題ないかを確認するためにはやぶさ2の陽が当たっている部分の温度や太陽電池パネルの発生電力をチェックしました。この他の情報も常に監視しながら運用を行っています。拡張ミッションの目標天体(1998 KY26)まで約10年、永い道のりを無事に到着できるように日々運用を続けています。
(M.K.)
★運用状況報告(2021/6/14〜6/27)★
引き続きイオンエンジンの運転を行っています。直近の運用では、はやぶさ2のレポートからアラートが確認されたため、時刻を指定してアラート時のデータを取得しました。結果、ノイズの影響でアラートが出てしまったようで、機体は正常に機能していました。このように、常に探査機の状態についての情報は保存され、点検・監視されています。この徹底された監視のおかげで、運用が保持されているのだと実感しました。今もはやぶさ2は拡張ミッションのため、まずは2026年の小惑星フライバイに向けて、遠い宇宙を飛行しています。(佐藤元紀)
★運用状況報告(2021/5/31〜6/13)★
前回の報告から引き続きイオンエンジンの運転を行っています。サンプルリターンミッション中では4台積んでいるイオンエンジンのうちスラスタA、C、Dの3台を使用してBをほぼ新品のまま残していましたが、拡張ミッションに入ってからはBの運転も行っています。また、拡張ミッションでは高推力モードから燃費を重視した高比推力モードに変更しています。今年の1月の運用ではB、C、Dの3台同時運転を行っていましたが、今回はBとDとを用いた2台同時運転として運用しています。イオンエンジンの点火は日本時間で毎週火曜日に行っているので、運が良ければHaya2NOWでエンジンがONに切り替わる瞬間が見れるかもしれません。(宮優海)
★「運用状況報告(2021/5/17~5/30)★
イオンエンジン運転中はその他の運用がなかなかできないので、必要な運用を事前に実施しました。5/18にはTIリセットを実施しました。詳しくは「こちはや」のコーナーをご覧ください。
その他に、ヒータ設定値をヒータ制御器(HCE)の不揮発メモリへの書き込みを5/21-22に実施しました。HCEは再起動時、不揮発メモリに書き込まれた設定で制御を再開する仕組みになっています。カプセル分離後にいくつかヒータ設定を見直したので、このタイミングで不揮発メモリに書き込みました。HCEを再起動することになっても、これで安心です。イオンエンジン運転開始にむけてこのような準備を進め、5/25に運転を開始しました。(S.N.)
今後、およそ2週間ごとに運用状況を報告します。直近に行った運用の概要や運用に関する豆知識などを、運用当番として参加している学生の皆さんが報告・紹介しますのでお楽しみに。