トピックスこちはや拡張ミッション編:No.1

はやぶさ2史上2度目のTIリセット

2021年5月18日の運用で、「はやぶさ2」の探査機内の時計を「再び」ゼロにリセットしました。これを「TIリセット」と呼んでいます(TIはtimeの略)。なぜ、この時点で探査機内の時計をリセットしたのかというと・・・

(初めてTIリセットを実施した前回の記事も併せてご覧ください)

まず、探査機内の時計について再度説明します。探査機から地球に送られてくる全てのデータには、それがいつ記録されたのかを示すために探査機内時刻の情報が付加されています。そのため探査機内には32ビット(2進数での桁数)の時刻カウンタがあり、TIカウンタと呼ばれています。時刻の刻みは31.25msです(msとはミリ秒=1000分の1秒)。つまり、TIカウンタの数値が1増えると、31.25msの時間が過ぎたことを意味します。

32ビットでは、4,294,967,296までの数が表現できるため、この数に31.25msを掛けたものが、探査機内の時計が計測できる最長時間となります。実際に計算してみると、約4年と3ヶ月に相当します。もし時間が経ってTIカウンタの数値が32ビットの限界を超えてしまうと値が0に戻ります(ロールオーバー)。そして、再びカウントアップしていくことになります。

「はやぶさ2」では小惑星近傍フェーズに備えて、初めてのTIリセットを打上げから約2年9ヶ月後の2017年9月5日に実施しました。つまり、そのままTIリセット運用をせずに放っておいたとすれば、初回から4年と3ヶ月後の2021年12月あたりにロールオーバーすることになります。仮に意図せずTIカウンタがロールオーバーしてしまうと、例えば探査機に登録されている時刻指定コマンドの実行や、地上に降ろす探査機データの時刻付けなどが意図通りに行われず、探査機運用に支障が出る可能性があります。そのため、今回のタイミングで「意図的に」TIカウンタをリセットしたわけです。

TIカウンタを0にリセットするには、なるべく運用が落ち着いている時が好ましいため、期限よりも半年ほど早く、イオンエンジン運用と被らない現時点で行うこととしました。TIリセット運用は首尾よく完了し、リセット直前のTIカウンタ値は16進数で de97c3e0、10進数に直すと 3,734,488,032 でした。この値を日数に直すと1,351日弱に相当します。小惑星近傍フェーズと帰還フェーズをひとまとめに、随分長く濃密な時間を刻んでくれたものです。

そして、今回のTIリセット運用によって再び約4年3ヶ月の猶予が生まれたことになります。改めて拡張ミッションへと踏み出した気持ちです。次回のTIリセットは恐らく2025年、つまり小惑星「2001 CC21」フライバイの前年に実施することになります。今後2031年の「1998 KY26」ランデブーまでには計2回ほど行うことになるでしょう。探査機の設計寿命を超えた拡張ミッションの旅ですが、今後のTIリセット運用のタイミングにも是非ご注目下さい。



図 運用の画面に16進数で表示されたTIカウンタ。
リセット後は値が小さい数になっていることがわかる。次回のTIリセットは2025年の見込み。
(画像クレジット:JAXA)


はやぶさ2プロジェクト Yuto Takei
2021.05.19


 こちはや
 楽しむ トップへ