TI(探査機時刻)リセットを行いました
2017年9月5日の運用で、「はやぶさ2」の探査機内の時計をゼロにリセットしました。これを「TIリセット」と呼んでいます(TIはtimeの略)。なぜ、この時点で探査機内の時計をリセットしたのかというと・・・
まずは、探査機内の時計について説明します。探査機から地球に送られてくるすべてのデータには、それがいつ記録されたのかを示すために探査機内時刻の情報が付加されています。そのために、探査機内には時刻カウンタがあり、時刻を刻んでいるわけです。その時刻カウンタは32ビット(2進数での桁数)です。また、時刻の刻みは約31msです(msとはミリ秒=1000分の1秒)。つまり、時刻カウンタの数値が1増えると、約31msの時間が過ぎたことを意味します。
32ビットでは、4,294,967,296までの数が表現できますから、これに31msを掛けたものが、探査機内の時計が計測できる最長の時間となります。実際に計算してみますと、4年と3ヶ月くらいになります。もし時間が経ってカウンタの数値が32ビットの限界を超えてしまうと値が0に戻ります。そして、再びカウントアップしていくことになります。これは、自動車の走行距離計(オドメーター)に似ていますね。昔の車では、走行距離が99999.9kmに達すると距離計の数値が0に戻ってしまうものが多かったと思います。最近の自動車では、もう1桁大きい数まで表示されているのが普通かもしれませんが。
「はやぶさ2」では、打ち上がってから現在まで約2年9ヶ月が過ぎましたから、このまま進めて行くと探査機が小惑星リュウグウに滞在中に時刻カウンタが0に戻ってしまうことになります。小惑星滞在時には、多くの観測データを取得するだけでなく、リスクを伴うクリティカルな運用も多数あります。そのときに時刻カウンタが0に戻ってしまうと、余計な混乱が生じる可能性があります。そこで、到着前には時刻カウンタを0にリセットすることになっていました。
0にリセットするには、なるべく運用が落ち着いている時が好ましいため、イオンエンジンの運用もない現時点で行うことが打ち上げ当初から予定されていました。その予定通りにTIリセットを行い、無事に終了したわけです。
これで、リュウグウ到着に向けてまたひとつ準備が完了したことになります。
はやぶさ2プロジェクト Makoto Yoshikawa
2017.09.11