トピックスアストロダイナミクスと重力測定降下運用

アストロダイナミクスと重力測定降下運用

これまでの「はやぶさ2」の運用のうちあまり報告がされていなかったことの1つにアストロダイナミクスがあります。宇宙工学では、宇宙機の運動や姿勢、軌道などを扱う飛行力学全般のことを「アストロダイナミクス」と呼んでいます。たとえば、2018年8月に行った重力測定降下運用で活躍しました。少し前のことになりますが、ここでご紹介します。

2018年8月6日から7日にかけて、小惑星リュウグウの重力の強さを推定するための「重力測定降下運用」が行われました。まず、「はやぶさ2」を高度20kmのホームポジションから高度約6100mまで降下させ、ここで軌道制御を一時的に止めて、機体をリュウグウに向けて「自由落下」させました。高度約850mまで降下したところで、今度はスラスターを瞬間的に噴いて機体に上向きの速度を与え、再び高度約6100mまで「自由上昇」をさせました(ボールを垂直に投げ上げるのと同じような運動を探査機にさせたことになります)。

このようにして「はやぶさ2」を自由落下・自由上昇させたときの振る舞いから、リュウグウの重力の強さが分かり、リュウグウの質量を求めることができます。計測の結果、リュウグウの質量は約4.5億トンと計算されました。

リュウグウの形や体積は、三次元形状モデル(7月11日の記事【リンク:http://www.hayabusa2.jaxa.jp/topics/20180711bje/index.html 】)が得られているので分かっています。この体積と今回得られたリュウグウの質量とから、リュウグウの平均密度を計算することができます。この値とリュウグウの形状から、リュウグウ表面での重力の強さ(重力加速度)が以下のような分布をしていることが分かりました。

リュウグウ表面での重力加速度はおよそ0.11~0.15 mm/s2 で、これは地球の8万分の1程度、イトカワの数倍です。また、リュウグウでは極付近の重力が強く、赤道付近の重力は弱いことが分かります。これは、赤道付近が外に張り出しているためです。

こうして得られた重力加速度の情報は、表面近くに接近する運用に使われてきました。もちろんタッチダウンの時にも活用されます。

ここで説明した重力計測運用は、アストロダイナミクスの一つの応用例です。「はやぶさ2」のアストロダイナミクスチームでは、このようなアストロダイナミクスのさまざまな手法を使うことで、探査機やリュウグウの軌道を推定したり、リュウグウの周囲に働いている力学環境を評価したりする活動をおこなっています。


はやぶさ2プロジェクト
2018.12.21