限界拡張日誌


★第2拡張★ イオンエンジン運転、2023年度ノルマを達成

第1回目の日誌からなんと1年近い月日が経ってしまいました…。自分も大好きな漫画家さん達や、物書きをされている皆様のご苦労を思い知る今日この頃です。。。さて、久しぶりの日誌では、久しぶりのイオンエンジン(IES)運転の報告をしたいと思います。 2023/09/12-25で、約10ヶ月ぶりのIES運転を行いました。元々軌道計画上、今季はこの2週間のみのノルマとなっており、イオンエンジンBを使い、約10m/sの速度増加を完了しました。また劣化対策として、燃料のXeの流量を増やすように変更してあります。 具体的には、流量を多めにして、推力を従来の定格10mNから8mNへと下げた領域で運転するように変更しました。これは、地上試験の結果をもとにしていて、イオンエンジンの取付面の損耗を抑えられることができるのではないか、中和器の+3mA制御運転の延命になるのではないかと期待されています(*1)。推力を下げた領域で使用すると、Isp(*2)が下がってしまうというデメリットもあるのですが、過流量の8mN運転でも、2031年の小惑星1998 KY26までの必要十分な燃料が残っています。但し、推力も10→8mN と2割減少しているので、寿命が25%以上改善されければ、トータルでは得になりません。イオンエンジンBが今後5千時間以上作動することでようやく、この対策が功を奏したかどうかが分かるのです。いやーまだまだ長いですが、ワクワクしますね!?

今後の長期計画で必要な増速量は現時点の計画では、表1の通りです。現時点までで、全体計画のおよそ147%のΔVを完了しました。次回のIES運転は約1年後の2024年10月となっています。



表1 拡張ミッション中に必要な軌道制御量

全体を通してみると、まだまだ長い道のりに思えますが、表1をよくよくご覧ください!実は、小惑星2001 CC21までは全体増速量(ΔV)のうちおよそ8%で到着予定となっているのです!!到着は3年後ですが、IESにかかる負担の割合で考えれば圧倒的に現実的な領域に踏み込んできました。

いよいよ拡張ミッション最初のハイライトであるフライバイ運用に向け、我々チーム一同、準備を進めています。2001 CC21フライバイ運用検討の詳しいことは、また次の機会にご紹介したいと思います。お楽しみに!!(次の記事は2ヶ月以内には書きたい。。。!)

(*1)https://www.hayabusa2.jaxa.jp/topics/20221223_IES/
(*2)Isp(比推力):推進剤効率を示す尺度で、推進剤の質量流量に対する推力の大きさを表す。


2023.11.7 三桝裕也