トピックス小惑星トリフネのフライバイ探査に成功!

2026年7月5日に行いました小惑星トリフネのフライバイ探査では、想定していた以上の成果を出すことができました。 トリフネの画像を図1に示します。フライバイは大成功でした。多くの皆さんに応援していただきまして、本当にありがとうございました。


図1 望遠の光学航法カメラ(ONC-T)で撮影された小惑星トリフネ
トリフネに最接近する約1秒前の2026年7月5日、18:29:59(日本時間)に撮影された。撮影の露出時間は8ミリ秒(1000分の8秒)であったが、小惑星手前側は少し画像ブレが見えている。(画像のクレジット: JAXA、東京大学、千葉工業大学、東京科学大学、産業技術総合研究所、パリ天文台、カナリア天体物理研究所)


■「世界一」と「世界初」の達成
フライバイ前後の軌道運用データとフライバイ後に探査機から伝送した科学観測データを詳細に解析したところ、図2に示すように、「はやぶさ2」探査機はトリフネの中心からは約744m、表面からは約400mのところまで接近していたことが分かりました(注)。これは、過去の太陽系天体のフライバイ探査の中で最小の距離になります。フライバイ時のトリフネに対する探査機の相対速度は秒速5.3kmでした。また、搭載した4つの科学観測機器でデータを取得することに成功しました。特にレーザ高度計(LIDAR)による距離計測の成功については、小惑星フライバイでは世界で初めてになります(図3)。 このように「はやぶさ2」のトリフネフライバイでは「世界一」と「世界初」の快挙を成し遂げました。


図2 フライバイの最接近地点と距離
この図は、フライバイ座標系と呼ばれる座標系で描かれており、「はやぶさ2」はこの図に対して垂直に通過している。「最接近地点」がトリフネ中心からの「はやぶさ2」までの距離が最も小さくなったところである。 トリフネ表面からの距離が最短になったのは、この最接近地点ではないが、この最接近地点の付近と考えてよい。(画像のクレジット:JAXA)



図3 トリフネフライバイにおけるLIDAR計測
LIDARは最接近の4分前から1分後まで1秒に1回レーザを照射し、18時29分56.5秒と57.5秒(トリフネ最接近の約4秒前と約3秒前)に距離を計測することができた(赤線)。距離はそれぞれ約20kmと約15kmであった。(図のクレジット: JAXA、北海道大学、大島商船高等専門学校、千葉工業大学、国立天文台、総合研究大学院大学、京都産業大学)



■科学データの取得成功
トリフネの観測はフライバイの2週間ほど前の6月20日から始まりました。トリフネの表面の詳細なデータが取得できたのはフライバイ直前のたった10秒にも満たない時間でしたが、トリフネについていろいろなデータを取得することができました。トリフネの形は2つの天体がくっついたような形をしていますが(図1)、これを専門的にはコンタクトバイナリー小惑星(接触二重小惑星)と呼びます。大きさは、長軸が約840m、短軸が340mで(図4)、平均直径は約540mとなります(注)。この他、中間赤外カメラ(TIR)で表面温度の計測ができていますし(図5)、近赤外分光計(NIRS3)で表面の近赤外線分光データも得られています。 光学航法カメラ(ONC)では、フライバイ直前だけでなく、6月20日以降は毎日科学観測を行っています。 その観測が最接近時の露光時間の決定に役に立ちましたし、トリフネの明るさの変化などのデータも取得しています。 このようなデータも含めて解析することで、今後、トリフネについていろいろなことが分かってくることになります。


図4 小惑星トリフネの大きさ
(画像のクレジット: JAXA、東京大学、千葉工業大学、東京科学大学、産業技術総合研究所、パリ天文台、カナリア天体物理研究所)



図5 中間赤外カメラ(TIR)によるトリフネの画像
トリフネに最接近する約2秒前の2026年7月5日、18:29:58(日本時間)に撮影された。色の違いは温度の違いを示す[白が高温、黒が低温]。(画像のクレジット: JAXA、前橋工科大学、千葉工業大学、会津大学、北海道教育大学、産業技術総合研究所)



■正確なナビゲーションの達成
工学としては、探査機の正確なナビゲーション(航法誘導制御)を行うことができたということが特筆すべきことです。フライバイ前に、「はやぶさ2」がトリフネに最接近する場所をトリフネの中心から800mのところにある一つの地点に決めました(目標点)。目標点を通過するように探査機を運用したわけですが、最終的に目標点から約120mずれたところを通過しました。 トリフネ中心からの距離では、ずれは-54mでした。最接近の時刻は、2026年7月5日、18:30:00.31± 0.03秒(日本時間)でしたから、予定時刻の18:30からのずれは0.3秒ほどです。

実際のナビゲーションの履歴を図6に示します。最接近の3時間ほど前までは、地上にデータを降ろして、運用のメンバー (※)で光学電波複合航法によって「はやぶさ2」の軌道を制御していき、最後はオンボードで探査機にインストールしたソフトウエアによって探査機の軌道を制御しました。
※フライバイ航法誘導制御運用を行ったメンバーの所属機関は次のようになります(順不同):JAXA、宇宙技術開発株式会社、NECネッツエスアイ株式会社、株式会社セック、DAIKO XTECH株式会社、学校法人千葉工業大学、東芝電波テクノロジー株式会社、日本電気株式会社、日本電気航空宇宙システム株式会社、 NPO法人日本スペースガード協会、富士通株式会社、富士通ディフェンス&ナショナルセキュリティ株式会社、国立高等専門学校機構松江工業高等専門学校、NASA/JPL/DSN


図6 航法誘導制御の履歴
探査機の軌道制御を行うことで、トリフネへの最接近位置が変化していく様子を示す。①:TCM-Bによる制御(2026年7月1日、14:50) ②:TCM-Cによる制御(2026年7月4日、17:50) ③:TCM-Dによる制御(2026年7月5日、15:27) ④:オンボードによる制御。時刻は日本時間。[TCM:Trajectory Correction Maneuver、軌道制御] (画像のクレジット:JAXA)



■プラネタリーディフェンスに関連する成果
最後にもう一つ重要な成果がプラネタリーディフェンス(地球防衛)です。トリフネフライバイは、地球防衛についても大きな成果を挙げました。 小惑星のような天体が地球に衝突すると大きな災害となりますが、そのような災害を避けようとする活動がプラネタリーディフェンスつまり地球防衛です。小惑星の地球衝突を避ける方法として、探査機を小惑星に衝突させて小惑星の軌道をずらすという手法があります。この場合、小さな小惑星に正確に探査機を衝突させることが必要になりますが、トリフネフライバイでは探査機をトリフネの至近距離のところを正確に通過させることができました。 これは小惑星に衝突させることもできることを意味します。日本も、地球防衛の一つの技術を手にしたことになります。

また、地球防衛については「緊急調査」の実証になったということも重要です。天体が地球に衝突すると分かったとき、衝突まで十分な時間がないことも想定されます。そのようなときに、すでに宇宙空間を飛行している探査機を使ってその小惑星を緊急に調べることができれば非常に有益です。「はやぶさ2」のトリフネフライバイは、まさに別目的で打ち上げられた探査機を使って小惑星を調べてその物理的性質を把握したり軌道を正確に推定したりすることができたわけですから、緊急調査の実証になりました(日本語で「緊急調査」としましたが、英語では、fast reconnaissance conceptと呼ばれています)。

■今後の展開
以上のように「はやぶさ2」による小惑星トリフネのフライバイ探査は大成功でした。今後、さらにサイエンスデータの解析が進むと思います。その結果を、是非、楽しみにお待ちいただければと思います。一方で、「はやぶさ2」探査機の方は、フライバイ後の7月9日からはイオンエンジンの運転を始めています。次の目標は、2027年12月の地球スイングバイです。そして最終的に目指すのは2031年の小惑星1998 KY26へのランデブーです。「はやぶさ2」の挑戦はまだまだ続きます。

注:サイエンスデータや軌道データの今後の詳細な解析により、トリフネの中心および表面からの距離やトリフネの大きさの値が改定される可能性があります。


参考情報:

■ONC-Tによって撮影されたトリフネフライバイ時の動画

望遠の光学航法カメラ(ONC-T)が最接近直前に撮影した画像を動画にしたもの。 2026年7月5日、18:29:52から18:29:59(日本時間)に撮影。撮影間隔は1秒で、1枚の画像の撮影の露出時間は8ミリ秒(1000分の8秒)。この動画は、撮影された画像の解像度を落として作成している。 2026年7月6日に公開した動画では、最接近の7秒前と6秒前の画像がまだ伝送されていなかったので含まれていなかったが、こちらの画像には含まれている。(画像のクレジット: JAXA、東京大学、千葉工業大学、東京科学大学、産業技術総合研究所、パリ天文台、カナリア天体物理研究所 )

■TIRによって撮影されたトリフネフライバイ時の動画

中間赤外カメラ(TIR)が最接近直前に撮影した画像を動画にしたもの。2026年7月5日、18:29:50から18:29:59(日本時間)に撮影。撮影間隔は0.25秒。動画の最後の数フレームに見える横線はTIRの装置の劣化による不良画素である。 (画像のクレジット: JAXA、前橋工科大学、千葉工業大学、会津大学、北海道教育大学、産業技術総合研究所)

■LIDARによる計測結果

レーザ高度計(LIDAR)により、2026年7月5日、18時29分56.5秒と57.5秒(日本時間、トリフネ最接近の約4秒前と約3秒前)において、それぞれ約20km、15kmの測距値(赤い丸印)を取得した。それ以外の時刻では距離は測定されていない(青いバツ印)。縦線は最接近時刻18:30:00.31。 (図のクレジット: JAXA、北海道大学、大島商船高等専門学校、千葉工業大学、国立天文台、総合研究大学院大学、京都産業大学)


■JAXAプレスリリース
小惑星探査機「はやぶさ2」が取得した小惑星「トリフネ」の画像(2026年7月6日)
小惑星探査機「はやぶさ2」、太陽系天体フライバイ探査における最小距離を更新(2026年7月30日)
小惑星探査機「はやぶさ2」、世界初の小惑星フライバイ時のレーザ測距に成功(2026年7月30日)


はやぶさ2拡張ミッションチーム
2026.8.7