トピックスHayabusa2サンプルリターンカプセル
火球の超望遠映像

Hayabusa2サンプルリターンカプセルが火球となって大気圏再突入した際には、様々な観測機器を用いて科学観測を行いましたが、ここでは超望遠撮像システムを用いて取得した超望遠映像について紹介したいと思います。超望遠映像を取得する目的は、カプセルと、その周りの高温ガスの流れの様子を観察することによって、カプセルが遭遇した空力加熱環境を理解し、カプセルを空力加熱から保護する熱防御システムの挙動を確認するためです。これを行うことによって、将来のサンプルリターンミッションにおいて新たなカプセルを開発する際に、飛行結果から獲得された様々な知見を反映し、設計を改善することが可能となります。

超望遠映像を取得するために、主光学系としてVixen社の天体望遠鏡VC200L(主鏡有効径200 mm、焦点距離1,800 mm)を用い、これにZWO社の ASI224MC 1.2 MP CMOSカメラを装着して撮像しました。主光学系の分解能は0.58秒角、映像視野角は水平0.16°×垂直0.12°です。このような超望遠撮像を行うためには火球の正確な追尾が必要ですが、火球は天空を高速で移動するため、通常用いられている赤道儀やオートガイドでは追尾できません。そこで今回、火球の追尾のために、ステッピングモータによって水平・垂直方向の各軸を高分解能で高速に制御可能な経緯台を独自に開発しました。この追尾用経緯台においては、ハーモニックギアを採用してバックラッシュを低減し、各軸1.3秒角の分解能と、最大で毎秒7.2°の高速性を実現しています。

また追尾専用の望遠カメラとして、AstroStreetの有効径60 mm / F4のガイドスコープにAstroStreet のカラーCMOSカメラToupCamを装着した望遠カメラを用いました。撮影されたイメージは制御用コンピュータに取り込まれ、常にイメージの中心に火球が位置するようにステッピングモータを駆動することによって、火球を自動追尾します(PID制御)。しかし、追尾専用の望遠カメラは映像視野角が水平1.1°×垂直0.86°しかなく、最初に火球をフレーム内に捉えることに失敗したり、途中で火球がフレームアウトしたりすると、その後は追尾できません。この問題を解決するために、Watec社のCMOSカメラWAT-933にComputar社のメガピクセルレンズAG3Z2812FCS-MPWIRを装着した広視野角のカメラを追加し、火球が追尾専用望遠カメラからフレームアウトしている場合には、フレーム内に火球が捉えられるように手動で経緯台を回転させる機能を追加しました。

豪州におけるHayabusa2サンプルリターンカプセルの回収オペレーションでは、カプセルの大気突入軌道の前方に設置された地上局から超望遠撮像を試みました。地上局に設置された超望遠撮像システムの外観を図1に示します。事前に推定されたカプセルの大気突入軌道を踏まえて火球の出現位置を予想し、超望遠撮像システムをそちらへ向けて火球の出現を待ちましたが、僅かなずれがあったようで、火球出現時には追尾専用望遠カメラで火球を捉えることができませんでした。そこで、広角カメラの映像を利用して、火球が望遠カメラのフレーム内に捉えられるように経緯台を回転させたところ、火球をロックオンすることに成功しました。以後、火球の光が弱くなり追尾できなくなるまで、火球の超望遠映像を撮影することに成功しました。図2は超望遠映像から取得した代表的なスナップショットです。火球の発光が強過ぎるため、カプセルの姿を直接捉えることはできませんが、火球の尾は鮮明に捉えられ、尾の大きさや流れの構造も確認することができます。現在、超望遠映像の解析を進めており、カプセルが遭遇した空力加熱環境や、熱防御システムの挙動に関わる新しい知見が得られることが期待されています。



図1 地上局に設置された超望遠撮像システム
(画像クレジット:JAXA)


図2 超望遠撮像システムが捉えた火球の超望遠イメージ
(画像クレジット:JAXA)



Hayabusa2サンプルリターンカプセル 光学観測班
藤田和央
2021.8.23