トピックス小惑星リュウグウの偏光度を測定

地上望遠鏡の観測により小惑星リュウグウの偏光度を調べた論文(主著者:黒田大介)が出版されました。太陽系小天体の偏光度としては、最大値記録を更新する結果となっています。ここでは、その内容について紹介します。

■論文についての情報
論文タイトル:
邦題:高偏光度が意味するリュウグウの表層状態
原題:Implications of High Polarization Degree for the Surface State of Ryugu
著者: D. Kuroda, J. Geem, H. Akitaya, et al.  全著者
出典: The Astrophysical Journal Letters, 20 April 2021
DOI: 10.3847/2041-8213/abee25 (https://dx.doi.org/10.3847/2041-8213/abee25


■概要
はやぶさ2が地球に帰還する頃、小惑星リュウグウも地球から観測しやすい位置にいました。はやぶさ2地上観測サブグループでは、リュウグウの偏光度(光の方向による強弱度合い、詳しくは注釈1参照)の測定を行いました。偏光度は、物質の種類、形状、大きさに依存した値を示すことを利用し、小惑星表層の情報を調査することが、この研究の狙いです。特に、リュウグウの偏光観測は、「はやぶさ2」がその場観測したデータや「はやぶさ2」が持ち帰ったサンプルと比較することができるために、その他の探査機が訪れていない天体とは異なり、今後の小惑星の偏光観測の礎になり得る点で、科学的に非常に重要です。

■説明
小惑星リュウグウは、探査前の地上・宇宙望遠鏡による観測と「はやぶさ2」探査機によって調べ尽くされた天体といっても過言ではありません。しかし、これまで偏光度の測定はなく、他の観測から得ることができない情報をもつ唯一残された観測でした。また、今回の機会を逃すと、同じような条件で観測可能なのは10年以上先という事情もありました。
13の大学・研究機関(注釈2)の研究者からなる研究チームは、北海道大学附属天文台(北海道名寄市)、兵庫県立大学西はりま天文台(兵庫県佐用町)、広島大学東広島天文台(広島県東広島市)、普賢山天文台(韓国)の国内外4箇所の望遠鏡と偏光撮像装置を用い、小惑星リュウグウの偏光観測を行いました(図1)。2020年9月から12月まで合計24夜行われた観測データは、最大53%の偏光度を示し、太陽系小天体の偏光度としては最大値記録を更新しました(図2)。

図1 本観測で使用した望遠鏡および装置 (画像クレジットは()内の各大学)
左から 1.5m かなた望遠鏡+可視赤外線同時カメラHONIR (広島大学)
2.0m なゆた望遠鏡+広視野グリズム分光撮像装置WFGS2 (兵庫県立大学)
1.6m ピリカ望遠鏡+可視マルチスペクトル撮像装置MSI (北海道大学)
普賢山天文台1.8m望遠鏡+3色撮像装置TRIPOL#3 (韓国天文研究院/ソウル大学)



図2 小惑星と月の偏光度変化 (画像クレジット 京都大学)
横軸は太陽-天体-観測者のなす角度である位相角、縦軸は偏光度を示しています。
赤丸でプロットされたデータ点が、リュウグウの偏光度です。


本研究の観測といくつかの隕石の偏光度との比較から、リュウグウ表層の特徴として、サブミリメーターサイズの粒子の寄与を推定しました。つまり、リュウグウ表層は、表層の大部分にサブミリメーターサイズの砂粒が存在するか、サブミリメーターサイズの粒子が集まりより大きな石を構成しているという2つの可能性を示唆しています。はやぶさ2探査機の小型着陸機MASCOTが撮像した表層画像(図3)では、暗い色をしたカリフラワー状の組織を持つ岩が多く写っており、本研究で得られた結果と調和的なものは後者ですが、最近公開されたリュウグウのサンプル画像(図4)では、サブミリメーターサイズの粒子の存在も確認できています。


図3 MASCOTが撮影したリュウグウ表層の画像
(画像クレジット:MASCOT/DLR/JAXA)



図4 リュウグウで採取した岩石サンプルの顕微赤外像
(画像クレジット: MicroOmega/IAS/CNES)


今後、持ち帰ったサンプルを用いた偏光度測定を行えば、どのようなリュウグウの表層構造が、偏光度に影響するのか明らかになると考えています。また、観測で得られた偏光度を再現する中で、サンプル取得の際に失われてしまったリュウグウの表層構造を再構築することが期待されます。
太陽系の小天体表層には、その天体の進化の履歴が残っていますが、その調査は、概ね探査機に依存しています。本研究を元に、望遠鏡にて得られた偏光度を用いた小天体の表層調査が実証され、探査に頼らずに天体表面状態の推定ができるようになると、数多くの天体進化の履歴を追跡することができようになり、太陽系の起源と進化の解明に大きく貢献します。

(注釈1)
小惑星リュウグウを含む太陽系小天体は、その表層で光源である太陽光を反射して輝いています。一般に、光は、進行方向に垂直な面内で様々な方向に振動しながら進む電磁波の一種です。太陽光は、様々な振動方向を持つ光が集まっているので特定の方向性をもちませんが、物体にぶつかり散乱や反射をすると、振動方向に偏り(強弱)が生じます。この偏りの程度を表すのが、偏光度(%で表記)であり、光が反射する物質の種類や形状、大きさを反映します。

(注釈2)
京都大学, ソウル大学, 千葉工業大学, 広島大学, 兵庫県立大学, 北海道教育大学, なよろ市立天文台, 名寄市立大学, 名古屋大学, 株式会社ささご, 岡山理科大学、北海道大学, 宇宙航空研究開発機構


全著者
D. Kuroda1, J. Geem2, H. Akitaya3,4, S. Jin2, J. Takahashi5, K. Takahashi6, H. Naito7, K. Makino8, T. Sekiguchi6, Y. P. Bach2, J. Seo2, S. Sato9, H. Sasago10, K. S. Kawabata4, A. Kawakami5, M. Tozuka5, M. Watanabe11, S. Takagi12, K. Kuramoto12, M. Yoshikawa13, S. Hasegawa13, and M. Ishiguro2

著者所属
1 Okayama Observatory, Kyoto University, Okayama, Japan
2 Department of Physics and Astronomy, Seoul National University, Republic of Korea
3 Planetary Exploration Research Center, Chiba Institute of Technology, Chiba, Japan
4 Hiroshima Astrophysical Science Center, Hiroshima University, Hiroshima Japan
5 Nishi-Harima Astronomical Observatory, Center for Astronomy, University of Hyogo, Hyogo, Japan
6 Asahikawa Campus, Hokkaido University of Education, Hokkaido, Japan
7 Nayoro Observatory, Hokkaido, Japan
8 Nayoro City University, Hokkaido, Japan
9 Astrophysics Department, Nagoya University, Aichi, Japan
10 Sasago Co.,Ltd., Aichi, Japan
11 Department of Applied Physics, Okayama University of Science, Okayama, Japan
12 Department of Cosmosciences, Hokkaido University, Hokkaido, Japan
13 Institute of Space and Astronautical Science, Japan Aerospace Exploration Agency, Kanagawa, Japan

・関連リンク
研究トピックス(京都大学大学院理学研究科付属天文台より)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/topics/Ryugu_Pol_Kuroda_2021.pdf
成果ニュース(千葉工大)
http://www.perc.it-chiba.ac.jp/news/7229
研究成果(広島大学)
https://www.hiroshima-u.ac.jp/hasc/news/65067
ニュース(西はりま天文台)
http://www.nhao.jp/research/news/news210421.html
米国天文学会による一般向け解説記事(英文)
https://aasnova.org/2021/04/28/new-view-of-asteroid-ryugus-surface/


黒田大介(はやぶさ2プロジェクト 地上観測チーム/京都大学 理学研究科)
2021.5.31