たまてばこEpisode3 あの日

たまてばこ vol. 20:その3

光学軌道決定のミッションを終了し、キャラバンに戻ると、同行して下さったナースのミッシェルさんがシャンパンを開けてくれた。
思えば、ミッシェルさんには沢山、助けられた。
暑い中、西瓜を持って来て切って下さったり、寒い時には上着を貸して下さったり。
疲れている時は励ましてくれたり、毒蛇に噛まれたら動くなと注意してくれたり。

日中は45℃、夜は13℃と寒暖の差が激し過ぎる砂漠環境の中で、ミッシェルさんの同行は、どれ程、心強かったことか。

キャラバンに 戻るやシャンパン 開ける君 君がいたから 乗り越えられたよ

40℃ 超えた砂漠の 作業終え 乾いた体に 西瓜染み込む

オーストラリア空軍のエスコータのスキーさんも、我々のタフなスケジュールに付き合い、作業を手伝ってくれたり、キャラバンの中でちょっとした料理を作ってくれたり、終始気を配って下さった。

「日本には来たことありますか?」
「はい。厚木や沖縄に行きましたよ。P3Cに乗っててね~。」なんて、自分も海上自衛隊と関わったこともあったので、雑談にも花が咲いた。
(画像クレジット:飯島朋子)

(画像クレジット:飯島朋子)

カプセル回収当日の日は、もう一人、レンさんというエスコータの方を連れてきて下さり、なんとおにぎりまで握ってくれた。おにぎりって、こんなに美味しかったかな?

おにぎりを食べた後に、ほっとしながら5時頃に見た砂漠の中の朝焼けは、流れ星のカプセルとともに、生涯忘れないことだろう。

12月6日の朝焼け(画像クレジット:飯島朋子)

キャラバンで一眠りし、お昼ごろ、クーバーペディのホテルに到着すると、GOS3※チーム3人(我々の拠点は、JAXA3名)に、オーストラリアワインまでプレゼントしてくれた。

おもてなしという言葉は日本人ではなく、オーストラリア人のためにある言葉ではないだろうか? ここに来てから、ずっと感じていたことだった。
素晴らしいホスピタリティに、彼らへの感謝が溢れ、私に何ができるだろう?と考えていた。

そして、カプセルが無事に回収されたとの一報を聞くと、良かった~成功!という感激とともに、ふと不思議な感覚に捕らわれた。

-この感じ。いつもの何かに似ている。 という奴だ!

スターウォーズの「ジェダイの帰還」の映画のシーンが思い浮かぶ。国も生まれも違う同盟軍が一丸となって帝国側の防護シールドを開けようとしている、あのシーンが。
(画像クレジット:飯島朋子)

何故だろう?と、考える間もなく納得するのに一秒もかからなかった。

私達一人一人の力は決して大きくはない。そして、本務も同盟軍のようにバラバラ。
でも、各自がベストを尽くすことで、素晴らしい成果を上げることができた。
そのチームにいられたことも何て幸せなことだろう。

はやぶさ2プロジェクトの素晴らしい技術・マネージメント・チームワークと、現地の支援の連携が、スターウォーズの同盟軍の連携と重なった瞬間だった。

回収隊 その連携は 同盟軍 スターウォーズの 映画のごとし

その後、次の日になっても、感動の余韻があるのか、流星群のごとく短歌が沢山降り注いで止まらなかった。

健気に、インストルメントモジュールを守ってくれた、ヒートシールドの技術力も素晴らい!大気圏突入時の何万℃となる環境で「僕が守るから」とナイトのごとく守ってくれて、ドラマチックだな~と、ヒートシールドの気持ちになってみたり。

大気圏 突入時には 守るから 君はサンプル 無事に届けて

ドラマチック~という話を、以前、同僚にしたら、
「何言ってるの?きっと、ヒートシールドの気持ちはこうだよ。自分は特攻隊。所詮、自分は死する運命。インストルメントモジュールばかり大切にされてさ。ぷん、ぷん!て感じだよ笑。」
と言われ、
「そんなことない!ヒートシールドはお姫様を守るナイトみたいな感じですよ。」と、 GOS3に向かう車の中で、ヒートシールドとインストルメントモジュールの4コマ漫画製作で盛り上がったのを思い出してみたり。

この経験が、今後も私の中で、オパールのように時にはホワイトピンク、時にはコバルトブルーと玉虫色に輝き、今後の研究や人生に多大な影響をもたらすだろうと未来に思いを馳せてみたり。

回収隊 その経験は オパールの 煌めきごとく 人生照らす

その後、皆で行ったカプセル着地点ツアーでは、短歌が短歌を呼んだのか、広報の白井さんから短歌を頂いてみたり。

あさぼらけ 舞い降りてきた カプセルが 荒野の枯れ木に 華を咲かす
広報部 白井大雅

着地点記念撮影時(画像クレジット:JAXA)

隔離も含めて2か月近くという出張期間も、気持ち的には、光のように過ぎていったのかもしれない。竜宮城へ行ってたように、今までにない沢山の素晴らしい経験ができたものの。
本務から離れての2ヶ月は決して簡単じゃない。でも、もうすぐオーストラリアの地を離れることになるかと思うと・・・。
赤茶色の壮大な南オーストラリアの砂漠の中、カプセル着地点から帰途についた後も、後ろ髪惹かれる思いで、何度も、何度も振り返るのだった。
「あの場所を覚えていたい。忘れたくない。」そう胸に強く刻みながら。

※GOS3・・・光学軌道決定班の拠点の一つ

はやぶさ2 カプセル回収チーム 光学軌道決定班
飯島朋子
2021.01.06