「はやぶさ2」は2020年12月に地球帰還後、カプセルを分離して、また深宇宙へ飛び立つ軌道に乗ります。この時、イオンエンジンの燃料(キセノン)は約半分程度が残る見込みで、新たなミッションを行うことが可能です。そこで、どのようなミッションが可能であるか検討してみました。
最初に、この残燃料を使って到達できる天体を探索した結果、354個という数の天体が候補としてあることが分かりました。次に、天体到達に必要な軌道制御量や、対象天体の軌道確定度、探査機運用の成立性など工学的な観点と、対象天体の大きさや自転速度、タイプなど、理学的興味の観点からランク付けを行って精査した結果、最終的に2001 AV43と1998 KY26という2天体まで絞り込みました(図1)。
これらはどちらも直径数10mというとても小さな天体で、自転周期10分という非常に早い自転速度から、高速自転小惑星(Fast Rotator)と呼ばれます。未だかつて人類が到達したことのない特徴の天体であり、その特徴からリュウグウとの比較観測により、リュウグウで得られた科学的知見がより深められると期待されます。
これらの2つの天体へ向かう軌道はそれぞれ異なっており、2001 AV43へは金星経由、1998 KY26へはまた別の小惑星を経由する形で到達する計画で、EVEEA(Earth->Venus->Earth->Earth->Asteroid)シナリオとEAEEA(Earth->Asteroid->Earth->Earth->Asteroid)シナリオと呼んでおり、EVEEAシナリオでは、2024年に金星スイングバイ、EAEEAシナリオでは2026年に小惑星フライバイを行うのが主な特徴の違いになります(図2)。2001 AV43への到着は2029年11月、1998 KY26への到着は2031年7月の予定で、さらに10年程度かかる長期のミッションとなります。
これら2つのシナリオでは、異なる特徴があるものの、拡張ミッションの意義としては、共通して以下の3つを掲げています(図3)。
(1) 太陽系長期航行技術の進展
地球帰還までのミッションでの工学成果を踏まえ、より自在な、より遠方への探査を目指す上で必要な運用技術を獲得し、長期航行やフライバイを利用した理学観測を行います。
(2) 高速自転小型小惑星探査の実現
前人未踏の領域である高速自転小型小惑星を探査し、リュウグウで得られた科学的知見をさらに深めます。また、自転が速すぎて、小惑星表面において重力より遠心力の方が卓越しているという特殊環境へのアプローチから新たな小惑星探査技術の獲得を目指します。
(3) Planetary Defenseに資する科学と技術の獲得
地球に衝突すると地域的に大きな被害を引き起こす数10m級の小惑星を探査、その素性を解明することで、天体の地球衝突による災害を防ぐ活動(Planetary Defense)に資する技術や知見を獲得します。
上述の通り、目標の天体へ到達するのは、地球帰還後からさらに10年後となりますが、はやぶさ2の機体は地球帰還までのミッションを想定して設計されており、その後の搭載機器の寿命は保証の限りではなく、いつ故障や不具合が起こってもおかしくない状態です。このような状況の中、拡張ミッションを遂行するに当たり、はやぶさ2が飛行中に段階的に成果を積み上げていく方針で、ミッションを計画していきます。
今年の秋にはミッションを1つに絞る予定です。実際に拡張ミッションが実施できるかどうかは、このミッションを認めていただいて予算を付けていただく必要があります。カプセルを無事に地球に届けた後、是非、新たな挑戦に向かって進んで行きたいと思います。
※参考資料:
2020年7月22日の記者説明会資料
はやぶさ2プロジェクト
2020.07.31