トピックスリュウグウは太陽に焼かれることで
変質していた!

小惑星探査機「はやぶさ2」が行ったタッチダウン運用や全球観測などで得られたデータを解析することで、リュウグウ表面や軌道について新たなことが分かりましたが、その論文がアメリカの科学雑誌Science(サイエンス)電子版 に2020 年5 月7日(日本時間5月8日)に掲載されました(Morota et al., 2020)。この論文は、「はやぶさ2」のサイエンスチームのメンバーでもある東京大学の諸田智克准教授を中心に執筆されたものです。


論文タイトル: Sample collection from asteroid 162173 Ryugu by Hayabusa2: implicationsfor surface evolution(「はやぶさ2」による小惑星リュウグウからの試料採取:リュウグウの表面進化への示唆)
著者: T. Morota, S. Sugita, Y. Cho, et al.    全著者
DOI: 10.1126/science.aaz6306

・JAXAプレスリリース
・説明資料

■論文の概要

2019年2月22日(日本時間)、小惑星探査機「はやぶさ2」は小惑星リュウグウの試料採取を目的とした第1回の着地(タッチダウン)に成功しました。タッチダウンの際に取得された超高解像度画像から、タッチダウン時に打ち込まれた弾丸とスラスタ噴射の影響で、多くの岩石と、岩石表面やその内部の隙間に付着していたと考えられる大量の赤黒い微粒子が舞い上がったことがわかりました。またクレーターの年代とクレーターが掘り起こした地下物質の色の関係から、赤黒い物質はリュウグウの表面から深さ数十センチメートル〜数メートルまで疎らに存在していること、それらは30万年前から800万年前の間の短い期間にリュウグウ表面物質が、太陽に焼かれることで変質してつくられたことがわかりました。この結果は、リュウグウは過去に現在よりも太陽に接近する軌道にいたことを示しています。また、着陸地点の表面には赤黒い物質だけでなく、変成をうける以前の青白い物質も存在していることから、変成をうけていない物質と変成をうけた物質の両方の物質が採取されたと期待されます。



■第1回タッチダウンで舞い上がった物質

これまでの「はやぶさ2」による観測からは、リュウグウ表面は岩に覆われており、月面のような微粒子の存在は確認されていませんでした。「はやぶさ2」はリュウグウの試料を採取するために、2019年2月22日(日本時間)に第1回のタッチダウン運用を行いました。図1はタッチダウンの際に広角の光学航法カメラ(ONC-W1)によって取得された画像です。小型モニターカメラ(CAM-H)が撮影した画像と一緒に示した動画が図2です。また、ONC-W1のみの動画を図3に示します。





図1:ONC-W1によって撮影された第1回タッチダウンの前後のリュウグウ表面の様子。日時は協定世界時。
(©JAXA、東京大、高知大、立教大、名古屋大、千葉工大、明治大、会津大、産総研)




図2:第1回タッチダウンの時にCAM-HとONC-W1で撮影された画像を時刻を合わせて動画にしたもの。(動画)(©JAXA、東京大、高知大、立教大、名古屋大、千葉工大、明治大、会津大、産総研)




図3:第1回タッチダウン時のONC-W1によって撮影された画像を動画にしたもの。(動画)
(©Morota et al., 2020)


タッチダウンと同時に試料採取のための弾丸発射と探査機上昇のためのスラスタ噴射によって、岩石だけでなく大量の黒い微粒子が舞い上がったことがわかりました。飛ばされた岩石の多くは白く変化したことから、もともと黒い微粒子は岩石の表面や内部の隙間に付着していたと考えられます。その後、舞い上がった微粒子はタッチダウン地点を中心に、直径10mの範囲に広がり、表面に堆積しました。図4にタッチダウンの前後での反射率と反射スペクトルの傾き(色)の変化の様子を示します。この図から分かるように、タッチダウンの前後でタッチダウン地点付近の色が赤黒く変化したことから、タッチダウンと同時に舞い上がった微粒子が赤黒い色をしていたと考えられます。





図4:タッチダウン地点周辺の色の変化。(A), (B) タッチダウン前(2018/10/2)と(C), (D) タッチダウン後(2019/4/4)の反射率と反射スペクトルの傾きの変化。(A)(C)は反射率を示し、(B)(D)は反射スペクトルの傾きを示している。点線の円の中心がタッチダウン地点。
(©Morota et al., 2020から一部改変)



■リモートセンシング観測結果との比較

全球的な観測から、リュウグウ表面は赤道ではやや青白く、中緯度では赤黒く、両極では特に青白いことがわかっています(図5)。本研究でさらにクレーター同士が重なっている領域の色の分布を詳細に調べてみると、他のクレーターよりも下にあるクレーター、つまり相対的に古いクレーターの内部は周囲と同程度の赤さを持つのに対して、上にあるクレーター、つまり若いクレーターの内部は周囲よりも青くなっていることがわかりました(図5)。このことから、過去にリュウグウ表面は赤く変化するイベントがあったこと、内部が赤いクレーターはリュウグウ表面の赤化が起きる前につくられたものであり、内部が青いクレーターは表面の赤化が起こった後につくられ、地下の新鮮な青い物質を露出させたものであることがわかりました。表面の赤さ分布に緯度依存性があり、また、赤いクレーターと青いクレーターが明瞭に二分されることから、リュウグウ表面の赤化イベントは太陽による加熱または風化によるものであり、それは短期間で起こったことを意味しています。





図5:リュウグウ表面の反射スペクトルの傾きマップ。(A)の黒丸、(C)の白丸はクレーターを表す。内部が青いB1やB2クレーターは他のクレーターよりも上にあることから若いクレーターであることがわかる。
(©Morota et al., 2020から一部改変)



■リュウグウは過去に太陽に接近していた

このことから、過去にリュウグウは一時的に太陽に接近した軌道にあったと考えられます。青いクレーターは表面赤化が起こってからつくられたものなので、その数密度から表面赤化の年代を推定することができ、30万年から800万年の年代が推定されました。図6はこれらの結果から推定されたリュウグウの進化史をまとめたものになります。





図6:推定されたリュウグウの進化史。
(©Morota et al., 2020から一部改変)



タッチダウンで観測された赤黒い微粒子は、この太陽接近の際に変成を受けた物質が破砕されたものであると考えられます。また、着陸地点の表面には赤黒い物質だけでなく、変成をうける以前の青白い物質も存在していることから、変成をうけていない物質と変成をうけた物質の両方の物質が採取されたと期待されます。




参考図


推定されたリュウグウの進化史(図6)に対応するおおよその軌道を示す。リュウグウは、小惑星帯の中で誕生したが、その軌道の近日点(太陽に最も近づく点)が水星軌道近辺にまで移動し、その後現在の軌道になったと考えられる。(©東大、JAXA)

はやぶさ2プロジェクト
2020.05.08