トピックス第1回ONC SV差込観測各賞が授与される

プロジェクト内で企画した「第1回ONC SV差込観測各賞」について、光学航法カメラ(ONC)サイエンスPI(Principal Investigator; 主担当)の杉田精司さんから紹介します。

SV差込観測とは

 探査機の運用には大きな緩急があります。探査機との通信に使われるアンテナのダウンリンク容量が余剰気味になって下ろすデータがないこともあります。探査機から得られるデータは大変貴重ですから、このような余剰は涙が出るくらいにもったいないものです。ですが、避けがたい必要な余剰なのです。データダウンリンク計画をアンテナ能力の最大値に合わせて立案すると、天候その他の要因でアンテナの転送速度が最大値にならなかった場合には、計画が破綻してしまいます。そのため、どうしても十分なアンテナ能力のマージンを確保した上で、計画する必要があります。結果として、実力最大値が達成された場合には、ダウンリンク容量は余ることになるのです。

ですが、いつ余剰が出るかは正確に予測できません。そうした不定期に発生する余剰部分を有効活用して、リュウグウの科学観測に役立つデータを一滴でも多く取ろうという目的で企画されたのが、SV差込観測です。SVとはSupervisorの略号で、管制室での現場指揮をとる人を指します。運用条件は探査機や地上アンテナ局の天候など様々な状況によって時々刻々と変化しますが、それを全体的に把握して運用を進めるのがSVです。この方の裁量で、「今日は予定外の追加観測とデータダウンリンクを差し込める」と判断して行う観測をSV差込観測と名付けて、実施して戴いています。

このSV差込観測は、サイエンス関係の各機器で用意してあって、2018年の終わり頃から不定期に実施して戴いています。私の担当する光学航行カメラ(ONC)のサイエンスからは、可視カメラの基本色である0.55µmのvバンドの画像を経度1°刻みに何度も撮像して、リュウグウの形状モデルや地図の正確さと頑健性を大きく高めるための基礎データを得ることを主目的に据えました。派手さはありませんが、時間を掛けて丁寧な解析を行っていくときには、非常に重要なデータになります。はやぶさ2のデータが末長く使われて世界の惑星科学に寄与する重要な資産になるために貢献するはずです。

この期待に応えて下さいまして、管制の皆さんは、猛然とSV差込観測を実施して下さいました。おかげで、SV差込観測を始めて戴いて半年ほどで、かなりまとまった観測データセットが得ることができました。本当にありがたいことです。


ONC SV差込観測賞

 半年という期間が良い区切りでしたので、SV観測前期で区切って、賞を出すことにしました。他の機器と調整して総合賞を出すのが重みが出てよいかもしれないとは思いましたが、各機器で出した方が賞の数も増えてプロジェクトに活気が増えて良いだろうという予想と、ONCが抜け駆けすれば目立つだろうという浅ましい打算があって、ONC単独で賞を出すことにしました。具体的には、この期間に特に猛然とSV差込観測を実施して下さったSVさん達と、そのコマンドを実際に打って下さったコマンダさん達を「SV差込大賞」「SV差込準大賞」「SV差込コマンダ金賞」「SV差込コマンダ銀賞」として表彰させて戴きました。さらに、1日に最も多くのSV差込観測を打ち込んでくれた方には、「SV差込猛打賞」と「SV差込コマンダ猛打賞」として表彰させて戴きました。賞状も賞金もないのですが、賞品は一品物の特製マグカップでした。ONC開発メンバーの中で最もセンスの良い松岡萌さんが設計・開発・発注 (†)してくれました。

SVさんとコマンダさんは文字通り縁の下の力持ちで文字通り日夜頑張って下さっています。彼らには日の当たる機会がなかなかないのですが、彼らの献身的な努力がないと科学観測は全く成り立ちません。こうした日々のご努力に対して少しでも感謝を表すことができる機会ができて良かったです。

†: 「はやぶさ2」プロジェクトからひとこと:実は、プロジェクト予算ではこのような賞品を購入することはできません。今回の賞品は、杉田さんが個人でご購入されたものです。杉田さんからは、「ここに掲載された写真に写ったSVさんとコマンダさんの笑顔を見ると、これほど甲斐のある支出は他にないように感じました」というコメントをいただいています。本当にどうもありがとうございました。


受賞者と受賞の様子

ONC SV差込観測大賞:月崎竜童(つきざき りゅうどう)さん(図中央)


  • 最多11回のONC SV差込観測を実施して下さいました。

ONC SV差込観測準大賞: 安部正真(あべ まさなお)さん(図中左から2人目)


  • 二番目に多い9回のONC SV差込観測を実施して下さいました。

ONC SV差込観測猛打賞:細田聡史(ほそだ さとし)さん(図中央)


  • 1日に最も多い4回のONC SV差込観測を実施して下さいました(合計数は7回)。

受賞者のコマンダさんには、プロジェクトサイエンティストの渡邊誠一郎さんとプロジェクトマネージャの津田雄一さんから渡して戴きました。


ONC SV差込観測コマンダ金賞:NECネッツエスアイ(株) 川田淳(かわだ あつし)さん(図中右)


  • 最多16回のONC SV差込観測のコマンドを打って下さいました。図中左が渡邊誠一郎さん。


ONC SV差込観測コマンダ銀賞:NECネッツエスアイ(株) 深野佳代(ふかの かよ) さん(図中右)


  • 二番目に多い14回のONC SV差込観測のコマンドを打って下さいました。


ONC SV差込観測コマンダ猛打賞:NECネッツエスアイ(株) 石出大輔(いしで だいすけ)さん(図中右)


  • 1日に最も多い4回のONC SV差込観測のコマンドを打って下さいました(合計14回)。図中左が津田雄一さん、左から二番目が筆者。

はやぶさ2プロジェクト
光学航法カメラサイエンスPI
東京大学 教授 杉田精司
2019.09.13