The Astrophysical Journal Lettersは、天文学や天体物理学の論文誌として米国で発行されている学術誌ですが、リュウグウの形状についての論文が掲載されました(掲載日:2019年3月26日)。掲載された論文は次のものです。
Hirabayashi, M., and 28 colleagues, “The western bulge of 162173 Ryugu formed as a result of a rotationally driven deformation process,” The Astrophysical Journal Letters, 2019, 874, 1, doi:10.3847/2041-8213/ab0e8b .
https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/ab0e8b
ここでは、この論文について、ご説明します。
算盤の珠のような形状を持つリュウグウは、はやぶさ2チームによって執筆されたサイエンス誌で発表された渡邊さん、杉田さん、北里さん筆頭の論文で詳細に紹介されています。小惑星がこのような不思議な形状を持つのは頻繁なことで、小惑星の多くがこのような形をしています。探査機がリュウグウにたどり着くまでは、その形状はただ「丸っぽい」という程度で、「算盤の珠である」ことは分かっていませんでした。問題はどうやってできたか。正直なところ、この質問に対する答えは様々な仮説がある一方で、直接的な説明はまだ見つかっていません。もっとも有力なのは高速回転説で、渡邊さんの論文で詳細に紹介されています。
今回、我々が着目したのは、一見リュウグウの形状は回転軸に対して大体軸対称だけど厳密にはそうではない、という点です。杉田さんの論文にも紹介されていますが、リュウグウの表面はトコヨフォッサとホウライフォッサという地溝を境に、西と東の表層が大きく異なります。通称、西バルジと呼ばれている西の領域は、東の領域と比べて、クレータの数が少なく、また表面が滑らかです。また、リュウジン尾根(赤道稜線)が、西バルジだと非常に傾斜角が急になっています(図1)。
今回の論文では、リュウグウの構造計算をして、西バルジ形成の解析を行いました。過去に起こったかもしれないという、リュウグウの構造変化後に起こる構造的緩和を調べるためです。詳細な構造解析を行うことで、東西の不思議な表面の相違は、過去にリュウグウが高速で回転していた時代に、西バルジが構造変化(おそらく地滑りまたは内部構造変化)によって形成されたものかもしれないことが見えてきました(図2)。高速回転説を支持する結果です。
この論文を執筆するにあたって、ONCチーム内であった頻繁な議論がこのようなアイデアのきっかけになったことを紹介します。リュウグウにたどり着いてから、ほぼ毎日新しい写真が探査機から送られてきて、「あれ、なんで?」という質問が無制限で出てきました。これらの質問をうまく説明するのは、ある種パズルのようなものです。毎日ONCチーム内でこれらを話し合ったり、定期的な会議で議論したり、「いやぁ、それはないよね〜笑」みたいな笑い話の中に、いいアイデアが入っていたります。アイデアは様々なところに潜んでいて、それを見つけるのは楽しいものです。ONCチーム内で行った真夏の活発な議論が、この論文の要素となっています。
最後に、この論文は成果というよりは、今後のさらなる研究の発端と考えています。この論文の先に新たな研究があると考えるとさらなる動機となります。算盤の珠が宇宙の中でどのようにしてできたのか。さらなる研究が楽しみです。
平林正稔 (光学航法カメラチーム Co-I、Auburn University)
はやぶさ2プロジェクト
2019.05.13