トピックスBlues For Hayabusa2

たまてばこ vol. 10

この文章は、本当は今年の9月に書き上げたかったものなのですが、諸事情のため遅れてしまいました・・・

2016年2月26日、渋谷区文化総合センター大和田さくらホールにて、守屋純子オーケストラの定期公演 "Play For Peace And More!"が行われました(図1、図2)。この公演に、「はやぶさ2」から津田プロマネと筆者を招待していただきました。オーケストラと言っても、クラシックではありません。ジャズのオーケストラです。

なぜ、「はやぶさ2」とジャズなのか不思議に思われる方もいらっしゃるかと思いますが、この日に「はやぶさ2」のために作曲された曲が初めて演奏されたのです。それを、津田プロマネと一緒に聞きに行きました。

曲のタイトルは、「Blues For Hayabusa2」。「はやぶさ2」のためのブルースです。作曲者は、ジャズミュージシャンでご自身はピアノを演奏される守屋純子さんです。守屋さんは、日本はもちろんのこと、アメリカ・ヨーロッパでも演奏活動をされているジャズピアニストで、尚美学園大学や昭和音楽大学でも学生さんの指導をされているそうです。特に、最近では徳川家康をモチーフにしたジャズ組曲も発表されており、「プレイ・フォー・ピース」というCDアルバムには徳川家康公400年祭記念組曲として、「裏家康公」、「久能山東照宮」、「表家康公」、「三河武士魂」、「三方原の戦い」というタイトルの曲がならんでいます。このタイトルからはジャズ音楽とは思えませんが、ジャズなのです。

さて、当日は、仕事を終えてから津田さんと一緒に渋谷に向かいました。渋谷駅からの道順が不適当で非常に遠回りして渋谷区文化総合センター大和田に到着。でも開演には間に合いました。第1部は、スタンダードな曲に加えて、徳川家康公に因んだ曲などの演奏があり、休憩を挟んで、第2部。プログラムの掲載されていたものとは曲の順番が異なり、最初に「Blues For Hayabusa2」が演奏されました。演奏の前には、守屋さんから「はやぶさ2」についての説明もありました。

Blues For Hayabusa2の最初の印象は、かなり意外でした。というのも、ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、「はやぶさ」初号機のときにもジャズ音楽が作曲されたのですが、それと雰囲気が全く異なっていたからです。「はやぶさ」のときの曲は、「Lullaby of Muses」というもので、ジャズミュージシャンの甲斐恵美子さんが作曲されたものです。まあ、作曲者が異なるので曲の雰囲気が異なるのは当たり前なのですが、まったく異なります。曲を言葉で説明することは不可能ですから、まずは、是非、「Blues For Hayabusa2」を聞いてみてください。この曲は、この公演で演奏されただけで、CDなどでは発売されていません。守屋さんにお願いして、YouTubeに載せていただきました。

守屋さんによる説明 :https://www.youtube.com/watch?v=Jl_7uBJtn6E
Blues For Hayabusa2 :https://www.youtube.com/watch?v=Yw1R_sQ6s4o

聞いていただいた方、いかがでしょうか? もし、「Lullaby of Muses」をご存じの方なら、全く雰囲気が違うことを実感されたと思います。「Lullaby of Muses」の方は初めての宇宙への旅の緊張感とか宇宙の深遠さとか、あるいは挑戦の厳しさなどを感じるような曲だと思いますが、「Blues For Hayabusa2」の方は、ちょっと気楽に宇宙の旅を楽しんでこようという感じに聞こえないでしょうか? もちろん、感じ方はひとそれぞれですが、筆者は「はやツーくん」が宇宙の旅を楽しんでいるかのように聞こえました。是非、「Blues For Hayabusa2」も楽しんでいただければ幸いです。

  • 図1 2016定期公演のパンフレットの表紙 

  • 図2 2016定期公演のプログラム 

最初に、この文章を9月に書きたかったと書きましたが、それには理由があります。この「Blues For Hayabusa2」の誕生にかかわっているのですが、ちょっと悲しい話です。

筆者のプライベートな話になりますが、飯島立士君という筆者の高校(栃木高校)の時の後輩がいました。山岳部で一緒に山に登っていました。飯島君は、共同通信社の記者として何回か宇宙研に取材に来てくれましたし、「はやぶさ2」がまだ予算が付かないでいる頃から、「はやぶさ2」のことをずいぶん心配してくれていました。あるときなど、早朝に筆者の自宅に突然来て、「はやぶさ2」について語っていったこともあります。本当に情熱の塊のような存在でした。

この飯島君が守屋純子さんのファンでもあり、是非、「はやぶさ2」のジャズの曲を作ってもらったらどうかということになり、2015年9月24日に3人で会って打ち合わせをすることになっていました。しかし、その2日前の9月22日、突然、彼がこの世からいなくなってしまったのです。ダイビング中の事故ということでした。飯島君はよくダイビングの話をしていましたが、彼は本職だけあって写真の腕前も相当なもので、ダイビングをしながら写真を撮影もしていました。事故は、普段よりも深く潜水する練習中に起こったということで、少し無理をしてしまったのかもしれません。打ち合わせですが、彼の遺志を絶やさないためにも予定通りに行い、そして生まれた曲が「Blues For Hayabusa2」なのです。

守屋さんは、飯島君への追悼の曲も作曲してくださいました。そのタイトルは「A Photographer」。この飯島君への曲も守屋さんの公演で演奏されましたが、ハーモニカの美しい旋律が流れる曲でした。

今年の9月で、飯島君がこの世を去ってから1年が経ちました。飯島君の「はやぶさ2」への情熱は半端なものではありませんでしたが、その気持ちに答えるためにも、知り合いのアマチュア天文家である渡辺和郎さんにお願いして彼の名前を小惑星に付けてもらいました。小惑星 (15821) Iijimatatsushiです(図3)。飯島君は、引き続き宇宙から「はやぶさ2」ミッションを見守ってくれていると思います。

  • 図3 小惑星 (15821) Iijimatatsushi 命名額 

注)「Blues For Hayabusa2」につきましては、2016年10月29日に行いました「はやぶさ2 トークライブVOL5」で紹介させていただいています。


追記)守屋さんのご厚意で、「A Photographer」もYouTubeに載せていただきました(2017.01.07)。
https://youtu.be/ipDStyF7kMQ

はやぶさ2プロジェクト 吉川真
2016.11.28