トピックス2016年5月、はやツー君と惑星直列

たまてばこ vol.2

昨日(2016年5月26日)、はやツー君がツイッターで惑星直列についてつぶやいていましたので(図1)、予定になかったのですが、急遽、ご説明をしたいと思います。

  • 図1 はやツー君のツイッター(2016年5月26日)

はやツー君がツイッターで見せていた画像は、「はやぶさ2」運用室にある探査機運用に使っているコンピュータのスクリーンショットなのでちょっと見にくいかもしれないですね。図を書き直してみると、図2のようになります。

  • 図2 2016年5月20日の惑星とリュウグウそして「はやぶさ2」の位置

図2のように、確かに太陽を挟んで水星から火星までの惑星がほぼ一直線に並んでいます。その中に「はやぶさ2」(=はやツー君)も加わっています。

実は、今、天文ファンの間で注目されているのは火星と地球の最接近です。最も接近するのは、5月31日で、そのときの地球と火星の距離は約7500万kmです。地球と火星はほぼ2年と2ヶ月ごとに接近します。その距離は接近ごとに違っていて、最も近い場合は約5600万kmで大接近と呼ばれ、最も遠い場合は1億km程度になり小接近と呼ばれます。今回の接近はちょうどこれらの間なので、中接近ですね。中接近と言っても、火星はマイナス2等星くらいの明るさになりますから、夜空で赤く明るく輝く星として見えます。今回の最接近の頃には、さそり座のアンタレスも火星のそばに見ることができるので、赤い星が2つ並んで見えることになりますね。

そのお互いに接近している地球と火星の間に、「はやぶさ2」が割り込んだことになります。「はやぶさ2」と火星との距離は、約5000万kmです。地球-火星の距離の2/3くらいですね。

ついでに、金星や水星もたまたま並んでくれたので、太陽系の内側は天体が並ぶことになりました。金星と言えば、今、「あかつき」(=あかつきくん)が金星のすばらしい 写真 を撮影していますね。

あかつきくんとはやツー君、太陽を挟んでちょうど反対側にいます。

さて、ついでなので、惑星直列について、ちょっと雑談です。また、雑談が長くなるかもしれませんが。

「惑星直列」という現象は、時々、忘れた頃(?)に話題になります。文字通り、惑星が一直線に並ぶことです。何か特別なことが起こりそうなニュアンスがありますが、実は惑星が直列しても、普段と何も変わりません。というか、惑星はなかなか直列もしないのです。

私が最初に惑星直列ということに触れたのは、昭和50年(1975年)に出版された「惑星直列」(J・グリビン & S・プレージマン 著、平野正浩 訳、金沢文庫)という本です。裏扉には、1978年8月28日と購入した日付が書いてあります(古い!)。この本のサブタイトルが「1982年 / 地球に大地震」というものですから、1982年に惑星が直列することで、地球に天変地異が起こるというようなことを主張しているような本に見えますが、中身はプレートテクトニクスや地震、そして太陽活動などについての解説がほとんどです。なので、タイトルだけセンセーショナルにした本ですね。

次に惑星直列に触れることになったのは、雑誌ニュートンから依頼を受けて「惑星直列」の記事を書いたときです。記事は、Newtonの1999年1月号に掲載されています(これもずいぶん前!)。2000年5月20日に惑星が直列するというので、惑星直列についての解説をして欲しいという依頼だったと思います。そのときには、米国のJPL(ジェット推進研究所)が公開していました惑星の暦のDE404というものを用いて、紀元前3001年から紀元後3000年までの約6000年間について、惑星の直列を調べました。もちろん目で配置を見て調べるのは大変ですから、コンピュータのプログラムを作って調べてみたわけです。そのとき作成していた図を研究室の資料の山の中から発掘することができましたので、いくつかお見せします。

まず、1999年1月号のニュートンの記事にあった2000年5月20日ですが、手元にあった図はなぜか2000年の5月17日ですが、図3のようになります。

  • 図3 2000年5月17日の惑星の配置。天王星と海王星を除く6つの惑星(当時は冥王星も惑星)が地球から見てほぼ40度の範囲にある。AUは天文単位。現在ではauと小文字を使うのが正式。

図3のように惑星直列と言っても、そんなにきれいに並ぶわけではないですね。もう少しましな直列はないかということですが、例えば図4は878年3月21日の惑星の配置です。冥王星を除く7つの惑星が、地球から見て約16度の範囲内にあります。図4は、中心にある地球からの距離を対数のスケールで描いています。なので、軌道が歪んでいます。これは図3のように普通に描くと中心部分が小さくなって見にくいからですが、とにかく地球から見た方向だけに着目してみてください。図4は、現在では冥王星は惑星ではないですから、8つの惑星すべての直列ですね。さらに、図5のような場合もあります。111年7月18日で、火星と土星と冥王星を除く6つの惑星がほぼ直列状態になっています。

  • 図4 878年3月21日の惑星の配置。中心が地球で地球からの距離が対数のスケールになっている。冥王星を除く8つの惑星がほぼ直列状態にある。
  • 図5 111年7月18日の惑星の配置。火星と土星と冥王星を除いた6つの惑星がかなり直線上に近く並んでいる。

この惑星直列の記事が出た1999年というのは、ノストラダムスの大予言で人類が滅亡することになっていた年ですね。今では、「ノストラダムスの大予言」という言葉自体、死語かもしれませんが。惑星が直列すると天変地異が起こると言われることがありますが、もちろん、惑星直列が原因で起こる天変地異はありません。惑星が直列して地球への引力が強まる効果などは、月や太陽からの引力の変動に比べれば桁違いに小さいものです。惑星直列と似たようなものとして「グランドクロス」とかいうものもあるようですが、いずれにしても天変地異は起こりません。

久々に前世紀に戻りましたが、検索をしたら、日本スペースガード協会のWebに昔書いた記事がまだ掲載されていました。ご参考までに。

  • 図6 2016年5月20日の天体の配置。惑星は水星から一番外側が土星となる。小さな黒い点は小惑星の位置で、ここでは小惑星の確定番号が1番から10万番までがプロットされている。実際には、この7倍以上の数の小惑星がすでに発見されている。

さて、やはり雑談が長くなりましたがもう一度現在(2016年5月20日)に戻って、より広い範囲で天体の配置図を描くと図6のようになります。地球から見ると、土星も火星と同じような方向にいますね。木星も地球の夜側に見えますが少しずれているようです。さすがに、はやツー君を見ることはできませんが...火星をみつけることができれば、今ならばその方向にはやツー君がいますよ。


はやぶさ2プロジェクト 吉川真
2016.05.27