OWC運用(ソーラーセイルモード)始めました
2016/01/11(月)の成人の日から、OWCという制御モード(ソーラーセイルモードとも呼んでいます)に改めて突入しました。この「こちはや」が開始される以前、2015年の3月~5月、6月~8月の期間でもこの制御モードに移行していたのですが、それ以来、5ヶ月ほど経過しているので久しぶりです。1/11のOWCモードへ移行する運用では、関係者一同、少しだけ緊張していました。もちろん、運用は滞りなく終了し、無事に3軸の姿勢制御モードからOWCモードへと移行しています。
それでは、せっかく「こちはや」で報告する機会をいただいので、OWCモードの説明に挑戦してみたいと思います。「OWC」というのはOne Wheel Controlという言葉の略称です。2015/11/24の「こちはや」で、F.T.さんが解説されていましたが、はやぶさ2には姿勢制御用にリアクションホイール(RW)という機器がX, Y軸用に1台ずつ、Z軸用に2台で計4台搭載されています。そのうち、Z軸用の1台だけを使用して姿勢を制御するモード、これをOne Wheel Controlモード、通称OWCモードと呼んでいます。4台あるリアクションホイールのうち、3台をRyugu到着後のミッションフェーズでフル活用させるため、できるだけ温存しておくというのがOWCモードに移行する最大の理由です。
Z軸用のリアクションホイールを1台だけ回転させると、その角運動量によりZ軸回りの姿勢の安定度を得ることができます(コマが回転していると回転軸が安定して倒れない原理)。また、リアクションホイールの回転数を変化させる際の反トルクによって、Z軸回りの回転を制御することもできます。一方、1台だけではX、Y軸回りの回転を制御することは基本的に出来ません。つまりZ軸の方向を制御することが出来ないのです。そのため、1台だけが制御出来ても、太陽電池パネルの方向を太陽に向けるような制御は一般的には出来ず、本来まともに姿勢制御の運用することもままならない難しい制御モードです。
が!安心してください。はやぶさ2では、「太陽光」による恩恵の下、このOWCモードにおいてもZ軸の方向を制御することに成功していますよ!
この手法は、古くは、はやぶさ初号機の時代に編み出され、IKAROSで洗練されたもので、探査機が受ける太陽光圧による外乱トルクを、スピンの角運動量による安定性と上手く調和させ、自動的にZ軸の方向が太陽方向を追尾していくというものです。しかし、IKAROSの段階までは、あくまでスピン型宇宙機の太陽光圧による姿勢制御の方式でした。はやぶさ2では、この原理をさらに深く追求し、スピンではないOWCモードにおいてこの制御方式を実現しました。これにより、OWCモードにおいても、太陽電池パネルを自動的に太陽方向に向けることが出来ます。さらに、Z軸回りの回転角を調整することで、±X、±Yのどの面に太陽光が当たるかで変化する光圧トルクを上手く活用し、太陽方向の周りでより微細にZ軸の方向を制御することにも成功しています。これにより、なんと数か月という単位で化学燃料を使わずに運用できた実績があります。
この太陽光圧を利用した姿勢制御技術の継承は、はやぶさ初号機やIKAROSの時代から先人達が築き上げた技術を、はやぶさ2においてより高みへと成熟させてきた一つの良い例だと思います。ここに至るまでの間、多くの研究者や技術者の方々の知恵と経験が活かされており、関わってこられた方々への感謝の念に堪えません。私が知る限りでも、ここでは語りきれない様々なエピソードがあります。これから先のミッションの中でも、このように継承・成熟された技術の例をたくさんご紹介できるよう、全力を尽くす次第です。
はやぶさ2プロジェクト Y.M.
2016.01.15