トピックスこちら「はやぶさ2」運用室:No.19

「リュウグウ」ってどんな小惑星?


いよいよあとわずかでリュウグウ到着となりました。先日(2018年2月26日)には、「はやぶさ2」搭載の望遠の光学航法カメラ(ONC-T)から、リュウグウ撮影にも成功しました。まだ点にしか見えませんが、目的地が見えたことは「はやぶさ2」プロジェクトメンバーとしては非常に心強いものです。

このリュウグウという小惑星がどのような姿をしているのか、実はプロジェクトメンバーも分かりませんし、世界中の専門家に聞いても誰も分かりません。そこで、到着前に皆さんにリュウグウを想像してもらおうというコンテストを行っています。その名も『〝小惑星リュウグウ〟想像コンテスト』です(応募先リスト)。ここでは、皆さんがリュウグウを想像するときに参考になりそうなことをまとめてみました。

※ご注意:以下の説明はちょっと長くなっています。また、少し専門的な説明にもなっています。〝小惑星リュウグウ〟想像コンテストについては、もしかすると既知の情報にとらわれない方がよいかもしれませんので、読むのが大変と思われた方は、最後の「まとめ」だけご覧ください。


1. はじめに

◆小惑星の姿が分からない理由

リュウグウがどのような姿をしているのか分からない理由は、大きな望遠鏡で見ても小惑星は点にしか見えないためです。これはちょっと不思議に思うかもしれません。何千万光年あるいは何十億光年彼方の銀河の形を見ることができるのに、太陽系の中にある天体の形が分からないなんて。このことは計算をしてみるとすぐに分かります。

例えば、大きさが1kmの小惑星が月の距離(約38万km)まで地球に接近したとします。そのときの小惑星の見かけの大きさは約0.5秒角です。1秒角というのは角度の1度の3600分の1ですから、これはその半分です。現在地上にあるどんな大望遠鏡で見ても、点にしか見えません。月の距離まで接近してもこのような感じです。普通、小惑星はより遠いところにいますから、より小さな“点”ですね。ちなみに、月の直径は約3500kmありますから、地球から見ると約0.5度(30分角、1800秒角)になります。さらについでに、おとめ座銀河団にあるM87という楕円銀河は、約6000万光年の彼方にありますが、見かけの大きさは約7分角(420秒角)です。なので、望遠鏡で見ると形が分かるわけです。


◆小惑星の形を知るには

では、小惑星の場合、その近くに行かないとその形は分からないのでしょうか? 小惑星の近くに行かなくても形を知る方法が二つあります。一つは小惑星の明るさの変化を調べて形を推定する方法です。小惑星は自転しています。もしその形がいびつだとすると、自転するにつれてその明るさが変化します。その明るさの変化のことを変光と呼び、そのデータがライトカーブ(変光曲線あるいは光度曲線)です。ライトカーブをたくさん取得して、小惑星の自転に関する情報(自転周期、自転軸の向き)や小惑星の形状を推定するのです。もう一つの方法は、レーダーによって直接的に調べる方法です。

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2. 小惑星イトカワの例

ここでは、「はやぶさ」が探査した小惑星イトカワを例にして説明します。小惑星イトカワは、イトカワと名前が付けられる前には、1998 SF36と呼ばれていました。これは小惑星の仮符号と呼ばれるものです。ここでは詳しいことは省きますが、1998年に発見された小惑星ということが分かります。小惑星探査機「はやぶさ」も打ち上げ前はMUSES-C(ミューゼス・シー)と呼ばれていましたが、1998 SF36がMUSES-Cの目的地に選ばれたので、多くの観測がなされました。その中でも重要な観測がライトカーブの観測です。

  • 図1 2001年に観測された小惑星1998 SF36のライトカーブ。横軸は自転の位相と呼ばれるもので、自転の1周期に対応する。縦軸は小惑星の等級の相対値。観測時期が異なる3つのデータが示されている。相対的な明るさなので、縦軸の値そのものには意味がなく変化の量に注目して欲しい。M.Kaasalainenらによる。(A&A 405, L29-L32, 2003)

小惑星1998 SF36がMUSES-Cの探査天体に決まって本格的に観測が行われるようになりましたが、その初めのころに取得されたライトカーブが図1です。ライトカーブの観測から1998 SF36の自転周期が12時間くらいであることが分かります。また、ライトカーブからは小惑星の形が推定できます。それが図2です。

  • 図2 ライトカーブから推定された1998 SF36の形状。M.Kaasalainenらによる。(A&A 405, L29-L32, 2003)

このようにライトカーブでは形が細長いということは分かるのですが、それ以上の詳しいことは分かりません。そこで、レーダーによる観測が行われました。レーダーの観測とは、電波を小惑星に当てて反射してくる電波を受信することによって情報を得るものです。飛行機の管制などで使われているレーダーと原理は同じです。違うのは、小惑星までの距離が非常に遠いことです。そのために強い電波を送信する必要がありますし、反射してくる電波は非常に弱いので大きなアンテナで受信する必要があります。小惑星のレーダー観測では、米国カリフォルニアのゴールドストーンにある直径70mのパラボラアンテナから電波を送信して、プエルトリコのアレシボ天文台にある直径305mのアンテナで受信するということが行われています。

1998 SF36へのレーダーによる最初の観測は2001年の3月から4月にかけて行われました。1998 SF36が地球に0.038天文単位(約570万km)まで接近するチャンスを利用したわけです。そのときのデータを解析して推定された1998 SF36の形が図3です。

  • 図3 2001年3月から4月にかけてのレーダーによる観測で推定された1998 SF36の形状。S. Ostroらによる。(Meteoritics & Planetary Science 39, Nr 3, 407-424, 2004)

その後、2003年5月9日にMUSES-Cが打ち上げられ、打ち上げ成功が確認されて「はやぶさ」と名付けられました。また、小惑星1998 SF36の方も、2003年8月にイトカワという名前が付けられました。これは、日本のロケット開発の父とも呼ばれている糸川英夫博士にちなんで名付けられたものです。1998 SF36は米国のLINEARというチームが発見したものですので、LINEARが名前を提案できる権利を持っていました。当時、「はやぶさ」プロジェクトからLINEARにお願いをして、イトカワという名前を提案してもらい、国際天文学連合で認められたのです。

さて、イトカワについては、「はやぶさ」が到着する前に再度、レーダーによる観測が可能でした。それは、2004年の6月のことで、このときにイトカワは地球に0.013天文単位(約200万km)まで接近したのです。この2回目のレーダー観測による形状の推定が図4です。

  • 図4 2004年6月のレーダーによる観測で推定されたイトカワの形状。S. Ostroらによる。(Meteoritics & Planetary Science 40, Nr11, 1563-1574, 2005)

「はやぶさ」がイトカワに到着したのは2005年9月ですから、到着までに図4までのデータが得られていたわけです。「はやぶさ」の場合には、目的の小惑星について、事前にかなりの情報が得られていました。しかし、表面の様子までは分からなくて、到着したら図5のようにクレーターが見られずでこぼこだらけだったので皆が驚くことになりました。

  • 図5 イトカワの姿。「はやぶさ」による撮影。(©JAXA)

図2、図3、図4と見てくると、小惑星の形がどんどん正確に推定されていったように思えますが、実物が図5ですから、やはり事前の推定とはかなり異なると言っても過言ではないことになります。

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3. チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の例

欧州宇宙機関(ESA)が2004年に打ち上げたロゼッタ探査機の目的地であるチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の例もあります。こちらの場合には、ハッブル宇宙望遠鏡で観測されてその形状が図6のように推定されました。

  • 図6 2003年3月にハッブル宇宙望遠鏡によって観測されたデータに基づいて推定されたチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の形状。(NASA、ESA、Philippe Lamyによる)

ところが、2014年にロゼッタ探査機がチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に到着して撮影した彗星の姿は、全くと言ってよいほど異なっていました。図7がその写真です。

  • 図7 ロゼッタ探査機が撮影したチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(©ESA)

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4. 小惑星リュウグウは?

イトカワやチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の例を見ると、事前に推定していたものと実際の天体とがかなり異なることが分かるかと思います。では、「はやぶさ2」が探査をする小惑星リュウグウはどうなのでしょうか? 以下でリュウグウについて分かっていることをまとめてみますが、結論を先に書くと、リュウグウについてもその本当の姿はどのようなものなのか「はやぶさ2」が到着してみないと分かりません。そこで、最初に書きましたように、『〝小惑星リュウグウ〟想像コンテスト』として皆さんの想像力をフルに発揮してもらおうと考えたわけです。では、以下にリュウグウについて分かっていることをまとめてみます。リュウグウを想像するときに参考にしてみてください。あるいは、参考にしない方が、より正確にリュウグウを想像できるかもしれませんが。

◆小惑星リュウグウの発見

小惑星リュウグウは、1999年5月10日に米国のLINEARプロジェクトによって発見されました。すでに述べましたようにイトカワを発見したプロジェクトです。仮符号は1999 JU3というもので、軌道が正確に推定されたときに162173番という確定番号が付与されました。1999 JU3は、「はやぶさ2」が最初に提案された2006年から探査候補に挙げられていましたが、「はやぶさ2」が2014年12月に打ち上げられた後の2015年9月に、「リュウグウ」という名前が付けられたのです。これは、JAXAが名前を公募した中から選ばれたもので、LINEARプロジェクトから国際天文学連合に提案していただき、正式に認められたものです。

リュウグウの軌道はイトカワの軌道と似ていて、図8のように地球と火星の間を公転するような軌道になっています。

  • 図8 リュウグウとイトカワの軌道(©JAXA)
◆リュウグウの大きさの推定

軌道が分かると次に気になるのが大きさです。これは観測される明るさから推定できそうに思えます。リュウグウの軌道は分かっていますから、観測されたときの地球からの距離は分かります。ですから、観測された明るさから大きさが推定できると考えられるわけです。しかし、このやり方はうまくいきません。というのは、小惑星表面の光の反射率が分からないからです。たとえば色が黒っぽい小惑星ですとあまり光を反射しないですし、白っぽければ光をよく反射することになります。小惑星の表面の光の反射率のことをアルベドと呼びます。アルベドが分からないと観測される明るさから大きさを推定することはできません。

小惑星の大きさを知るには赤外線による観測が有効です。太陽の光で暖められた小惑星は赤外線を放出しますが、どのくらいの量の赤外線が出ているかを調べることで、大きさを推定することができるからです。リュウグウは、日本の赤外線観測衛星「あかり」によって観測されました。その報告は、こちら(https://www.ir.isas.jaxa.jp/AKARI/topics/20150813_1999JU3/index-j.html)にあります。この他にもいろいろな観測がなされ、リュウグウの大きさは直径が約900mであると推定されました。また、アルベド(反射率)は0.05くらいと推定されました。アルベドは0が光を全く反射しない場合で、1が光をすべて反射する場合に相当します。0.05というと当たった光のうち5%を反射するということですから、かなり黒っぽい小惑星ということになります。

◆リュウグウの形の推定

リュウグウは、「はやぶさ2」の探査候補になってから多くの観測が行われるようになり、ライトカーブの観測も多数、行われました。すでにお話ししましたようにライトカーブの観測をすると自転周期や形を推定することができます。リュウグウのライトカーブの一例を図9に示します。

  • 図9 2007年および2012年に観測された1999 JU3(リュウグウ)のライトカーブ。縦軸が相対的な明るさで横軸が自転の位相。自転の位相とは、1周期の自転に対応しており、自転周期の7.6275時間で折り返してプロットしてある。個々のデータの縦棒は誤差範囲を示す。Myung-Jin Kimらによる。(A&A 550, L11, 2013)

図9を図1のイトカワのライトカーブと比較すると、変化の量が非常に小さいことが分かります。このことから、リュウグウの形があまり細長くはなくて球に近い形になっているのではないかと想像されます。

以上のことを総合してみると、リュウグウの大きさと形は図10に示すようになります。

  • 図10 リュウグウの大きさと形。形は、T. Müller氏による形状推定データ(2014年)より可視化したもの。比較のために、東京スカイツリー、イトカワ、東京タワーのおおよその大きさも記載した。(©JAXA)

リュウグウの形状については、最近までいろいろな推定があります。最も最近の形状推定としては、図11のようなものがあります。

  • 図11 リュウグウの形状推定。T. Müllerらによる。(A&A 599, A103, 2017)

このようにリュウグウの形は球形にちかい“おだんご”のようなものだろうと思われています。イトカワのときには、レーダーの観測でさらに形が確認できているのですが、リュウグウについては事前にレーダー観測はできませんでした。その理由は、リュウグウが発見されてからは地球にあまり接近しなかったためです。2008年2月に地球に0.16天文単位(2400万km)まで接近しましたが、これですと遠すぎでレーダー観測ができなかったのです。2020年12月には地球に0.06天文単位(900万km)くらいまで接近するのですが、これは、まさに「はやぶさ2」が地球帰還するタイミングになります。

◆リュウグウの自転の情報

ライトカーブからは、自転周期はかなり正確に求めることができています。リュウグウは7.6275時間ほど、つまり約7時間38分の周期で自転しています。ところが、自転軸の向きの推定は非常に難しいのです。イトカワのときには、形が細長かったこともありライトカーブから自転軸の向きの推定がしやすかったことと、レーダー観測によって直接自転の向きが分かりました。リュウグウは形が球形に近いため、自転軸の向きの推定が難しいことになります。また残念ながらレーダー観測もありません。図11の形状推定では、自転軸の向きは黄経340°、黄緯-40°と推定されました。

黄経・黄緯というのは、黄道座標系という座標系での値です。詳しいことはここでは省略しますが、地球儀の経度・緯度と似ています。地球儀での赤道が、黄経・黄緯では地球の太陽周りの軌道面に対応します。ここで、問題なのが黄緯-40°という数値です。黄緯が90°または-90°に近ければ自転軸が公転軌道面に垂直に近いことを意味しています。「はやぶさ」や「はやぶさ2」の探査方法では、黄緯が90°ないし-90°に近い方が有利なのです。イトカワではこの黄緯がほぼ-90°だったので探査には好都合でした。ところが、リュウグウでは-40°ということだとすると、小惑星の周りでの探査のスケジュールを工夫する必要があります。

この自転軸の向きの推定値には誤差がある可能性があるので、「はやぶさ2」がリュウグウに接近をしてその自転の様子が確認できるようになったら、真っ先に自転軸の向きを推定することを行います。自転軸の向きによっては、その後のミッションのスケジュールが大きく変わる可能性があります。

◆リュウグウのスペクトル

そもそも「はやぶさ2」が行く小惑星としてリュウグウ(1999 JU3)が選ばれた理由ですが、第1に探査機が行って戻ってこられる軌道にあることが条件ですが、2番目に重要な条件はC型の小惑星である、ということです。本当は、スペクトルについての説明もここで行いたいのですが、かなり長くなってしまうかもしれないので、ここでは、リュウグウのスペクトルを調べたところC型と呼ばれるスペクトルに分類された、ということのみに留めたいと思います。C型小惑星は、炭素質コンドライトと呼ばれている隕石の母天体だと考えられており、有機物や水を含んでいると思われています。まさに「はやぶさ2」が調べる科学のテーマであるので、C型小惑星のリュウグウが「はやぶさ2」の探査天体に選ばれたわけです。C型小惑星については、 『こちら「はやぶさ2」運用室:No.15』(http://www.hayabusa2.jaxa.jp/topics/20161125/)も参考にしてください。

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5. まとめ

リュウグウについて分かっていることあるいは推定されていることをまとめてみますと、

「リュウグウは大きさ(直径)が900mほどのほぼ球形をした小惑星であり、表面は黒っぽい(反射率が小さい)色をしており、7時間半ほどで自転しているC型の小惑星である」

ということになります。これで、リュウグウを想像することができるでしょうか? もしかすると、ここで書いたような情報にとらわれない方が本当のリュウグウに近いものが想像できるかもしれません。皆さんの想像力への挑戦です。

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※参考:小惑星ベヌー(Bennu)

米国の小惑星サンプルリターンミッションであるオサイリス・レックス(OSIRIS-REx)も今年(2018年)の夏以降に目的地であるベヌー(101955 Bennu)という小惑星に到着する予定です。ベヌーについてはレーダーによる観測がなされているのでその形状がよく分かっています(図12)。直径が約490mで約4.3時間の周期で自転しています。また、自転軸は黄道面にほぼ垂直です。

  • 図12 レーダーで観測された小惑星ベヌー(左)と推定された形状(右)。M. Nolanらによる。(説明はIcarus 226, 629-640, 2013を参照)

はやぶさ2プロジェクト Makoto Yoshikawa
2018.03.23

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「はやぶさ2」は,人類が訪れたことのない小惑星「リュウグウ」との往復航行をする宇宙船です.どんな冒険が待ち受けているか誰にも分からないけれど,きっと面白い航海になるはずです。どんな旅をするか,楽しみにしていてください。
(プロジェクトマネージャ 津田雄一)