トピックスこちら「はやぶさ2」運用室:No.15

C型小惑星とは何か


「はやぶさ2」のターゲットであるリュウグウ(Ryugu)はC型小惑星ですが、ここでは、C型小惑星とC型小惑星由来と考えられる炭素質コンドライトについて解説したいと思います。

地上に落ちてきている隕石の中に炭素質コンドライトという隕石のグループがあります。石炭片に似ていることが「炭素質」という名前の由来になっている炭素質コンドライトは惑星のように分化(天体内部が溶けてコア・マントル地殻構造に分かれていること)していない天体の破片、即ち未分化天体の破片の一種ですが、その元素存在度が太陽と酷似していること、また、炭素・有機化合物・水を多く含んでいることから最も始原的な隕石と考えられ、多くの研究者の研究対象になっています。

落下してくる隕石の軌道計算(事例は少ないですが)から隕石のほとんどが地球近傍小惑星と同様の軌道であることがわかっています。地球近傍小惑星は火星と木星の間にある小惑星帯から来たことが知られており、隕石も地球近傍小惑星と同様に小惑星帯から来たと考えられています。

小惑星のスペクトル(色)と隕石のスペクトルを比較してみると、それぞれ対応していることがわかっています。例えば未分化隕石で最もその発見個数が多く、そのことが「普通」という名前の由来にもなっている普通コンドライト隕石(炭素質コンドライトと比較し、珪酸塩中の中に含まれる鉄重量率が少ないタイプの隕石)に対応するのがS型小惑星と呼ばれるグループ、炭素質コンドライトに対応するのが、C型小惑星と呼ばれるグループという感じです。

火星と木星の間の小惑星帯でこの炭素質コンドライトに対応するC型小惑星の調べてみますと、小惑星帯の中での総質量・個数密度ともにC型小惑星は多数を占めていることがわかっています。このことから、C型小惑星は小惑星帯の代表的な存在と考えられられています。

しかしながら、地上に落ちて来ている隕石はS型小惑星が起源とされている普通コンドライト隕石が圧倒的多数を占めています。但し、この一見矛盾にみえる問題点は軌道力学と小惑星帯内小惑星の存在分布から説明できます。小惑星帯の中でも内側にある方が地球近傍に来やすいことが軌道力学から判明しており、一方で、小惑星の観測から小惑星帯内側になるほどC型小惑星よりもS型小惑星が多くなることがわかっています。この2つのことから、普通コンドライト隕石の落下数が多いことが説明できます。ですので、地球で手に入る隕石は残念ながら、小惑星帯の総質量・個数密度を反映していないのです。

2003年に打ち上げられた「はやぶさ」は工学試験探査機でしたが理学的な側面も持ち合わせており、小惑星の表層物質を持ち帰ることがその目的でした。隕石の故郷が小惑星であるという直接的な証拠がなく、隕石と小惑星の物質が一致しているかどうかの証明というのが理学的な目的でした。2010年にはやぶさ探査機は地球にサンプルを持ち帰り、それが普通コンドライト隕石と一致し、普通コンドライト隕石の母天体がS型小惑星であるということを証明しました。

「はやぶさ」はなぜ、小惑星イトカワ(Itokawa)に行ったか、というと行けるところに行ったというのが正確な回答です。地球近傍の小惑星は隕石の存在分布と同様に、S型小惑星がその大半を占めていることがわかっています。なので、「はやぶさ」は一番行きやすかったイトカワがたまたまS型であったのです。

現在小惑星リュウグウにむけて飛行中の「はやぶさ2」は理学探査機であり、炭素質コンドライト隕石の母天体であり、惑星帯の代表的な存在であるC型小惑星にいくということがその探査計画の目的です。なので、「はやぶさ2」の打ち上げ時期でC型小惑星の中で一番行き易い小惑星リュウグウが「はやぶさ2」の行き先になりました。ちなみにほぼ同じ科学目的のNASAの「OSIRIS-REx(オサイリス・レックス)」も同様な理由からBennu(日本語表記はベヌ、ベヌー、ベンヌがある)に行き先が決まっています。

小惑星リュウグウ自身は1999年に発見され、2001年にはC型小惑星ということが知られるようになりました。リュウグウは探査機が行き易い天体であったために観測が近年までの精力的に行われています。

C型小惑星は色(スペクトル)の特徴に従い、いくつかのサブグループには細分化されています(図1)。例えば、波長が長くなると反射率が低下するB型、0.7ミクロンに吸収があるCh, Cgh型、0.7ミクロンの吸収はないが1.3ミクロン以上で反射率が上昇するC型等々があります。その特徴には物理的な情報も含まれており、例えば、0.7ミクロンに吸収があるCh, Cgh型は炭素質コンドライトのサブグループであるCMコンドライトの母天体と考えられており、一方で、残りの細分化されたサブグループのB, C, Cb, Cg型は粘土鉱物が存在していない惑星間塵(氷と鉱物が反応するような温度を経験していない低温環境にいたは彗星から放出されたものと考えられている)と似ている特徴を示し、母天体はそれらと同様な天体と考えている説もあります。

NASAのOSIRIS-RExのターゲットであるBennuは可視光分光観測(可視光で色を詳細に見る観測)からC型小惑星の細分化されたサブグループのB型と分類されていました。しかしながら近赤外線まで広げた観測例をみてみるとC, Cb, Xタイプにも見受けられるようなスペクトルが得られました。但し、その解釈としては、以下のようなことが考えられています。イトカワ表層にも表層粒子の細かい・粗い粒子が分布しているところがくっきりと分かれていることがはやぶさ探査機で確認されていますが、Bennu表層にもそのような分別作用が起こっており、その影響でスペクトルの形が異なっていると考えられています。

さて、実際にリュウグウの観測を行うと、Bennuと同様に、特定の細分化されたC型小惑星の型でなく、幾つかの型に当てはまる結果が出ました。1999年に行われた可視光分光観測ではサブグループのCg型, 2007年の観測ではCh/Cgh型, 2012年の観測ではC型という感じです。これは観測季節毎にリュウグウ表層を見ている位置が異なっており、表層に異方性があるからという話もありますが、詳しいことはわかっていません。そこで、近年では色をみる波長範囲を近赤外線まで広げて観測を行っています。その結果は細分化されたサブグループのC型という結果がでています。但し、1季節の観測で、確定的なことが言えない状況であるために、今年(2016年)はチリのヨーロッパ南天天文台にある超大型望遠鏡VLT(Very Large Telescope)で波長範囲を広げた統合的なスペクトル観測が行われました( トピックス「超大型望遠鏡VLTによる小惑星リュウグウの観測成功」で行われた観測とはまた別途行われた)。現在、観測結果待ちですが、その観測でこの問題の解決ができる可能性はありますが、最終決着は「はやぶさ2」によるリュウグウのその場観測によってなされるでしょう。

  • 図1 小惑星のスペクトル型の分布
    (筆者がF. E. DeMeo氏から許可を得て改変・掲載)


はやぶさ2プロジェクト Sunao Hasegawa & 地上観測チーム
2016.11.25