たまてばこEpisode1 あの日

たまてばこ vol. 20:その1

時刻は午前、3時55分を回ったところ。
光学観測軌道決定の設定を完了すると、今頃、熱圏に突入かな?と夜空を見上げながら、地球に向かってくるカプセルに思いを馳せた。
自身のカメラの動画設定も準備完了。北西方向の夜空と、PC画面を見比べながら、

あと2分 北西方向 皆注視 今か今かと ワクワクと待つ

君は今 熱圏、中間 圏進み 火球となりて 地球に帰らん

といった感じで、

まるで自分が大気圏に突入するかのような気持ちで、頬が段々と熱くなるのを感じた。南オーストラリアの砂漠の夜は真夏でも、肌寒いというのに。

しばらくすると、不意にPC画面では、光学観測のタイマー録画が流れ出した。
カプセルが、高度130Kmに到達した合図だ。
「そろそろ来ま~す!」と、元気よく皆に声がけすると、ワクワクと光学観測が上手くいくかどうかの緊張で、自身の胸も火球のように高鳴ってくるのが分かった。

タイマーの 録画スタート確認し そろそろ来るよ ワクワクと待つ

そろそろね タイマー録画 流れ出し 熱圏上の 君想像す

「まだ来ない、来ないね。」
「あっ!あれじゃない!?」
「どこ?」
「北西の頭上!」
「あれだ~!!見えた~!!見えた~!!」

皆が一斉に、北西方向を見上げるのと同時に、

えっ!これがカプセル!?
こんな風に見えるの?
再突入カプセルの火球映像 (画像クレジット:JAXA)

と、驚きを隠せなかった。

火球が線香花火のように、キラキラ輝きながら、オリオン座リゲルから、ケンタウルス座α星の方向にゆうゆうとスモークを引いていく。

見えました! 火球キラキラ スモークも 君は線香 花火のごとし

カプセルから空気が剥離して、渦ができている。
まるで「見て!深宇宙の彼方から地球に帰ってきたよ!」ということを皆にアナウンスするかのように、空気を掻きながら頭上を泳いで行くカプセル。

何故、こんなに空気の流れが見えるのかしら?
そうか!月の光が火球の後の空気の流れを可視化してくれているんだ。
今まで、光学観測の星合わせに、月の光が邪魔だね~と苦労していたというのに、何という功名。

「邪魔ですって!?それなら、私の力を見せて上げるわ!私だって、回収に一役買ってるのよ。」と言わんばかりに、クイーンセレニティは、無邪気にキラキラとカプセルを照らし出してくれたようだった。
ありがとう。お月様!

火球から スモークを引く カプセルよ 空気掻いてる 帰ってきたんだ!

月光が 火球と後引く 渦照らす カメラで撮れぬ 君の軌跡を

後で分かったことだが、この渦の流れは、どのカメラでも捉えられていない。
火球に注目が集まる中、航空屋の私にとって、カプセルの後の空気の流れは印象深く、カプセルの設計にフィードバックできるではないかしら?と、自身の瞬きで夢中でシャッターを切った20秒間だった。
光学観測軌道決定の機材と月の光 (画像クレジット:飯島朋子)

その2に続く

はやぶさ2 カプセル回収チーム 光学軌道決定班
飯島朋子
2021.01.06