たまてばこEpisode2 あの日

たまてばこ vol. 20:その2

「あっ、あれ!」
「見て!」
「人工衛星かな?動いてる、動いてる。」
「はやぶさ2かな?」
「え!?本当!?」

カプセルが地平線に消えていくと、南東方向に人工衛星らしきものが去っていくのが見えた。ミッシェルさんと揃って目撃。

高度300Km上空にいる、はやぶさ2だったのかしら?
はやぶさ2は、カプセル撮影姿勢で南オーストラリアに近づくから、あり得ない話じゃない。

これからまた長い太陽系への航海に出る前に顔を見せてくれたのかもしれない。
キラキラ光りながら夜空を行く様は、「後は頼んだよ〜」と微笑んでくれているかのようで、涙が零れそうになった。
一目会いたかったから、嬉しくて、嬉しくて。涙の代わりに短歌が零れ落ちた。

南東に 消えたカプセル その後に はやぶさ2が キラッと微笑む

君はまた 太陽系への 旅に出る 地球去る前 一目会えたね

「そこにバラが咲いているだろうと思いを馳せることで、僕にとって星々は以前と違って見える。星が全部笑って見えるんだ。」
ふと、サン・テグジュベリの「星の王子様」が囁いた。

そうだね。今、同じ気持ちだよ!私が見る星空は、これからは違って見える。
夜空を見上げるたびに、星たちが笑って見え、はやぶさ2の無事の航海を祈るよ。
もう二度と会えないけれど。カプセルを届けてくれてありがとう!

6年間 一緒に旅した 別れの日 お疲れ様と 迎えるからね

迎えられて良かった。どうか、ご無事で!そう、星の王子様と夜空に心の中で呟いていた。

これからは いつも夜空を 見るたびに 君の航海 無事を祈るよ

12月3日の南オーストラリアの星空(画像クレジット:飯島朋子)
月が昇る前に地平線がボーっと光り始めているのが分かります

PCの前に戻り、光学軌道決定のソフト処理を同僚と進めながらも、何か、もやもやがおさまらないでいた。

私は、あの時、何に驚いたのだろう?
カプセルが、想像していたより暗かったのはその通り。
でも違う。何かあるはず。カプセルがゆうゆうと頭上を泳いで行ったあの20秒間の出来事を脳内で再生してみた。

-あのカプセル、何て表現して良いものか。何かに似ている。
-そうだ!!まるで、☆彡(流星)の絵そっくりじゃないかしら?!
☆の部分は線香花火のようにキラキラ輝いていた火球で、彡の部分は空気の渦とスモークで。
-流星の絵を初めて描いた人は、この姿を知っていたのだろうか?だとしたら、天才!

流星☆彡の 絵はまさに今日の 君のこと 火球の後に ゆうゆうWake
※ Wake Vortex:後方にできる乱流渦

流星の絵が生まれたのは、大昔にこれと似た風景を誰かが見たからなのかしら?
流星の絵の物理的意味を知るために、私はここに来たのかしら? な~んてね。

次第に白んでいく夜空に、全てが計画されたような大いなる意図を感じながら、ゆうゆうと目の前を泳いでいったカプセルを、何度も思い出すのだった。

Coober Pedyから南に2時間弱の南オーストラリアの砂漠の中。
12月6日に、この場所にいられたことを誇りに思う。

その3に続く

はやぶさ2 カプセル回収チーム 光学軌道決定班
飯島朋子
2021.01.06