No.4:カプセル回収 − 再突入カプセルの探索
  R-18(地球帰還まであと18日)


ここでは、ウーメラ管理区域に着地した再突入カプセルを探す方法や、カプセル発見直後に行うことをご説明します。

ビーコンによって再突入カプセルを探す

カプセルの着地予想エリアは100km四方以上になります。東京都が何個も入る広いエリアなのですが、カプセルの分離は地球から約22万km離れたところで行います。月までの距離が約38万kmですので、およそ月までの距離の半分以上のところから投げたボールがオーストラリアの100km四方に収まるのは、すごいコントロールでもあります。
    とはいえ、地上に着地したカプセルを闇雲に探しても見つかるはずがありません。そこで、前号で述べたビーコン信号を使って探索します。着地予想エリアの周囲にアンテナを5局設置し、どの方角から信号がきているか計測します。それぞれの方角を本部に報告し地図に書き込むと、交点ができます。この交点が信号源の位置になります(三角測量の原理)。この方法は「はやぶさ」と同じですが、「はやぶさ2」ではエリアのカバーやトラブルも考慮し、1局増やして計5局で探索することにしました。なお、地上局で信号源を特定しても、まだ数km四方までしか絞れません。また、カプセルが地平線に隠れて地上局では着地後は信号が受信できません。そこで、最後はビーコン受信機を備えたヘリコプターでみつけます。

ビーコンによる方向探索(画像クレジット:JAXA)


バックアップのカプセル探索手段

すべて順調にいけばいいのですが、なにかが起こることにも備えておかなければなりません。「はやぶさ2」では、いくつか新たな手法を導入しました。その一つが、マリンレーダです。カプセルは小さすぎるのですが、パラシュートを検出することができますので、何らかの原因でビーコン信号が発せられなくても探索できます。今回、4局を着地予想エリアの周囲に配備します。

マリンレーダシステム(画像クレジット:JAXA)


また、「はやぶさ」と同じく、再突入の発光の光学観測を行います。複数の地点から発光の方向を計測して、三角測量の原理で再突入の軌道を決定することができます。曇ったりすると計測できなくなるので、航空機による観測も行います。その軌道を延長すると、風の影響を受けない場合の着地点が予想できます。ヒートシールド分離に異常があった場合、パラシュートも開かずビーコン信号も出ませんので、光学観測の結果が頼りになります。

光学観測カメラシステムと光学観測の様子(画像クレジット:JAXA)


また、「はやぶさ2」ではドローンによる探索も導入します。ドローンはプログラムされた緯度経度を飛行し、隙間無く写真を撮ることができます。前述のどの方法もうまくいかなかったり、エリアが求まっているのにカプセルが見つからなかったりした場合には、膨大な写真を画像解析して探し出します。

ドローン:有翼無人機(UAV)(画像クレジット:JAXA)


カプセル発見後の作業

カプセルを発見してもすぐに近寄ってはいけません。パラシュート開傘やヒートシールド分離には火工品を使っており、まずは未発火などがないか安全の確認を行います。オーストラリアの安全担当官の許可を得た上で、安全確認、カプセルの損傷やサンプルの漏洩のないことを確認したら、ヘリコプターで本部に運び、クリーンルームで清掃とガス採取を行います。サンプルコンテナ内には、リュウグウのサンプルからにじみ出た僅かなガスが含まれている可能性があるため、地球大気に汚染される前に現地で簡易分析します。また、サンプル自体も酸化などしないうちに、回収したらメンバーよりも先にチャーター機で日本に持ち帰ります。

オーストラリアでは、まだカプセルは開封しません。中にどれだけのサンプルが入っているか不安と楽しみですが、ガスの分析でなにか見つかれば大きく期待が膨らみます。

これから、現地の作業が始まります。結果をお楽しみに。


はやぶさ2プロジェクト 中澤暁
2020.11.18

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