トピックス「はやぶさ2」が撮影した南極とその周辺

「はやぶさ2」は、2015年12月3日に地球に接近してスイングバイを行いましたが、地球から離れるときに、搭載しているONC-Tと呼ばれる光学航法望遠カメラで地球を撮影しました。南極とその周辺の様子が撮影されています。
ONC-Tでは7つのフィルタを使って撮影することができます。このうち3色の画像を使ってカラー画像として作成したものが図1です。オーストラリア大陸や南極大陸が見えています。ひまわりなどの気象衛星では南極点付近を撮影することは難しく、今回は貴重な写真を撮ることができました。
現在、日本の第57次南極地域観測隊(JARE57)が南極観測船「しらせ」に乗って南極昭和基地へ向け航海中です。隊員たちの行く手に南極海の暴風圏(低気圧の渦列)が立ちはだかっている様子がよくわかります

  • 図1 2015年12月4日、13時 9分(日本時間)に「はやぶさ2」のONC−Tによって撮影された地球の画像。地球と「はやぶさ2」の距離は約34万km。画像右上にオーストラリア大陸、右下に南極大陸が見えている。(©JAXA)

「はやぶさ2」の目的は、小惑星リュウグウ(Ryugu)から有機物や含水鉱物を持ち帰って調査することです。ONC−Tの役目は、7色の画像をうまく利用してリュウグウのどこに有機物や含水鉱物があるかを確認し、着陸する場所を決めることです。
この性能を利用して2色の画像から植物の存在を示す場所を明るく表示した画像が図2です。図1の画像では雲に紛れて見えにくかったニュージーランドやアフリカ大陸が確認できます。逆に植物のない南極大陸は真っ暗です。図3では、氷と雲で反射の性質が異なる2色を使い、雲を白く、氷を青く表示しました。図1のように通常は同じ色に見える雲と南極の氷を見分けることができ、海岸線や南極横断山脈などの地形も確認できます。
このように、物による反射の性質の違いを利用し、ONC−Tを使って撮ることができる様々な色の画像を比較することで、形だけでなく「そこに何があるか」に関する情報が得られます。打ち上げ前に沢山の性能試験を行っており、今回の地球観測でしっかりとその性能が発揮されていることを確認できました。この機能を使って小惑星リュウグウの表面を調べ、有機物や含水鉱物を持ち帰るための着陸地点を決定します。リュウグウに到着するのは2018年の予定です。

  • 図2 2色の画像を合成して植生があると推定される場所を示した画像(左)と、地球の画像を重ね合わせたもの(右)。画像右側にニュージーランド、左側にはアフリカ大陸やマダガスカル島が確認できる。画像上部に見えているのはインドネシア方面、左上に見えているのはインド半島方面か。(©JAXA)
  • 図3 南極大陸の部分(左)を、2色の画像情報を使って雲を白、氷を青で示した疑似カラー画像(右)。上下方向に南極横断山脈が確認できる。(©JAXA)

※ONC-Tは、JAXA、東京大学、千葉工業大学、立教大学、明治大学、名古屋大学、会津大学、高知大学の協力のもと開発された機器です。今回公開された画像の処理は、産業技術総合研究所の協力を得て行われました。
関連リンク:立教大学理学部亀田研究室による発表