限界拡張日誌


★第1拡張★ RWの使い方を拡張させた件

この日誌の記念すべき第1回目はリアクションホイール(Reaction Wheel:RW)の使い方を拡張させた話を紹介させていただきます。

RWとは、電力を使ったモータ駆動で、円盤状の金属板を回転させることにより、角運動量を発生させる装置です。この角運動量の変化を利用して、トルクを発生させ、探査機の姿勢を制御します。1つのRWにより、その軸まわりの角運動量を制御することになります。また、角運動量を維持することにより、ちょっとした姿勢外乱に対しても剛性を持ち、姿勢を安定して維持させることができます。はやぶさ2 ではX、Y、Z軸の三軸の姿勢をそれぞれ制御するため、探査機に固定されている座標系でX、Y、Z軸まわりにRWが回転するように配置されています (ちなみに、実は冗長系を含めて、はやぶさ2には4台分のRWが搭載されていますが、その話はまた今度)。



図1 はやぶさ2に搭載されたRW


RWの金属盤は、角運動量を維持するために、常に回転させておく必要がありますが、その回転数の幅には制約があります (ちなみに、回転数は、RPM: Rotation Per Minuteという単位で表現しており、1分間に何回転するか、という尺度になっています)。はやぶさ2のRWは、ハードウェアとしては、0~6000rpmの範囲は無理なく稼働可能ですが、はやぶさ初号機の教訓もあり、出来るだけRWを大切に扱うため、およそ中心値の3000rpm前後をノミナルの回転数として、そこから±1000rpm程度の変化があれば、スラスタ噴射を行って回転数の調整を行なってきました(スラスタを用いた回転数(=角運動量)調整をアンローディング(UNL)と呼びます)。また、姿勢を大きく変更する姿勢マヌーバを行う際には、RW回転数も大きく変化してしまいますが、この時にも3000rpmに対して、±1000~2000rpmほどの変化の範囲に収めるため、マヌーバする角度を分割して(Z軸周りに180deg回転させる場合には30deg×6回などにして)、 1回のマヌーバが終了する度に回転数調整を行いながら、姿勢変更を実施していました。しかし、このやり方では、燃料消費も非常に大きくなってしまいますし、また大きな姿勢変更を行う場合に、時間がかかり過ぎてしまいます。

そこで、タイムクリティカルな大角度の姿勢マヌーバが必要となる地球帰還のCPSL分離運用のために、この回転数の制約条件を緩和し、およそ±5000rpmの範囲は自由に回転数を変化させても良いということに変更しました。これにより、スラスタ噴射の回数を劇的に抑えることができ、特に、燃料消費を可能な限り低減させる必要のある拡張ミッションにおいては、この効果は非常に大きいものとなりました(これが無かったら、1998 KY26に到着する頃にはスラスタ燃料はスッカラカンになっているところでした)。

これにより、RWの回転数は、時にはゼロを跨いでプラスからマイナスの値になる、回転数の「ゼロクロス」も許容しています。ゼロクロスは、一般的にRWにとってあまり良い作用及ぼすものではないと考えられていますが、はやぶさ2に搭載しているRWについては、ゼロクロスさせる場合も、0rpm付近の低回転領域で停留せずに、スピードを持ってゼロを越えていけば問題無いと言われており、0rpm付近の回転領域は極力避けて、可能な限りRWの故障リスクも抑えた上で運用を行っています。また、RW内部のベアリング寿命に対しては、回転数が低い方が良いと言われており(もちろん、ゼロ付近のように低過ぎては逆効果)、元々3000rpmをノミナル値として使用していたところ、現在では2000rpmを目標にするなど、RWの定常の使い方にも工夫を凝らしています。



図2 RWの姿勢変更時の回転数変化のイメージ(制約緩和Before/After)クリックで拡大。

2022.12.6 三桝裕也