No.3:カプセル回収 − 概要
  R-20(地球帰還まであと20日)

小惑星サンプル回収の意義

「はやぶさ」「はやぶさ2」は多大な時間とコストをかけて、小惑星からサンプルを持ち帰ってきます。その量は決して多くありません。一方、小惑星と同じ起源と言われている隕石が地球には多数落下してきます。同じならば、隕石を分析すればいいではないか、と思われるかもしれません。しかし、隕石は大気圏突入で溶けた残りであり、構造や溶けやすい物質などは失われています。また、地球の物質によって汚染されてしまいます。小惑星のサンプルは、宇宙での状態のまま、地球に持ち帰る必要があるのです。サンプルを保護したまま地球に持ち込むのが「再突入カプセル」です。


カプセルの分離

「はやぶさ2」探査機は小惑星を出発し地球に帰還するフェーズで、地球のギリギリ脇を過ぎる軌道にイオンエンジンで調節しながら地球に近づいてきます。地球に近づいた後の軌道修正(TCM: Trajectory Correction Maneuver)は計5回、化学推進系で行います。TCM-1、TCM-2で調整し、TCM-3で探査機の軌道をいったんオーストラリアに向かう軌道に調整します。そして、TCM-4で調整した後、再突入の約12時間前にカプセルを分離します。元々の探査機の速度にくらべて分離速度は小さいので、カプセルはほぼ探査機の軌道のまま地球に再突入します。そのままでは探査機も地球に再突入してしまうので、カプセル分離1時間後に探査機はTCM-5を行って、再び地球の脇を抜ける軌道に入れます。カプセルは、オーストラリアのウーメラ管理区域(Woomera Prohibited Area)に着地します。なお、TCM-3およびカプセル分離はオーストラリアの国土に宇宙機を再突入させる運用のため、オーストラリアの安全担当官の許可を得た上で実施します。

地球に向かう探査機の運用(画像クレジット:JAXA)


カプセルの再突入

カプセルには姿勢制御や軌道制御の仕組みは一切ありません。分離した後は調整できないので、その分離精度は重要です。地球の重力で加速され、最終的には秒速12kmで地球に再突入します。突入時にはカプセル表面は約3000℃の高温になり、明るく輝きます。この高温から内部を守るため、カプセル周囲はヒートシールドという耐熱材で覆われており、内部は80℃以下に保つように設計されています。高度約10kmで、前後のヒートシールドは分離します。そして、サンプルが入っている本体(I/M: Instrument Module)のパラシュートが開傘し、ビーコン送信アンテナが露出して、ビーコン信号を発信しながらゆっくり降下して着地します。パラシュートは風に流されますが、分離したヒートシールドは、あまり風の影響を受けずに別の場所に落下します。

カプセル再突入の概要(画像クレジット:JAXA)

着地したカプセルはできる限り早めに発見して、日本に持ち帰る必要があります。カプセルを探す方法については、次号でご説明します。

参考:「再突入」と記していますが、突入が二回行われる訳ではありません。宇宙機は地球から打ち上げられて戻ってくるので、大気圏に突入することを「再突入」と言います。ですので、例えば地球起源でない隕石の落下は「再突入」と言いません。



はやぶさ2プロジェクト 中澤暁
2020.11.16

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