トピックスバーチャルリアリティで小惑星
リュウグウの上に立ってみよう!


バーチャルリアリティでリュウグウ表面に立っているようす(© OmniScope / JAXA)


2018年6月、小惑星リュウグウの姿が少しずつ見えてきたときから、ほぼ2年が過ぎようとしています。そのとき、「はやぶさ2」に搭載されたカメラが送ってきた画像は、驚きでした。リュウグウという小さな世界は、数々の深いクレーターが掘られ、多くの岩でデコボコだらけだったのです。でも、もう一歩進んで、岩塊やクレーターで覆われたリュウグウの荒々しい表面に立ったらどうなるか、想像できるでしょうか?

距離が遠いのと危険であるため、他の天体の上を歩くことは非常にチャレンジングです。これまで地球を離れて出かけていったのは、ほんの少しの宇宙飛行士だけです。その宇宙飛行士も、小惑星のように遠くには行ったことがありません。しかし、「はやぶさ2」のように惑星探査ミッションによって詳細な画像が得られると、新たな可能性が生まれてきます。それは、バーチャルリアリティによって天体に行くというものです。

バーチャルリアリティあるいはVRというと、コンピュータゲームを思い浮かべるかもしれません。しかし、あなた自身を異なった環境に置くことができるということは、研究や教育、そしてアウトリーチにとって大きな可能性を持っています。VRの中ならば、物体を持ち上げたり回したり、どのような環境でも360度を眺めたり、同じ場所で他の人たちといっしょに交流したりできるのです。これは、人と実際に会うのとほとんど同じです。ただし、他の場所に行くのに、あなたの部屋から出かけなくてもよいということがいつもと違うのですが。





バーチャルリアリティで装置に触っているようす。バーチャルリアリティで、MASCOT着陸機やMINERVA-II-1ローバーを持ち上げて調べることができる。(動画)(© OmniScope / JAXA)


世界的な感染爆発(パンデミック)が起こっている今、多くの人たちは家に閉じこもっているわけですが、まさに今がVRによって人々が集まることができることを実証できる機会かもしれません。横浜インターナショナルスクールの好奇心旺盛な学生の皆さんと一緒に、「はやぶさ2」ミッションの対話型のツアーに出かけてみました。




横浜インターナショナルスクールの学生さんとバーチャルリアリティで行ったツアーのようす。(動画)(© OmniScope / JAXA)


バーチャルリアリティを体験する最も効果的な方法は、ヘッドセットを頭に付ける方法なのです。そうすると、すべての方向を自由に見ることができます。しかし、特殊な機器を使うことは、少し敷居が高いことにもなります。そのために、私たちはMozilla Hubsというものを使いました。Mozilla Hubsとは、オープンソース(プログラムが公開されたもの)のVRによるミーティング・スペースで、パソコン、タブレット、モバイル端末そしてすべてのVRのヘッドセットでアクセスできるものです。生徒さん達は、自分のパソコンのウェブブラウザで参加することができます。そして、すべての方向を見たり、物体に触ったりできるのです。

私たちのツアーは、ごく普通のミーティングスペースのように見える部屋からスタートしました。実際、これは、東京工業大学の地球生命研究所にある交流エリアを模擬したものになっています。部屋の中の1つの机の上には、「はやぶさ2」の大きな模型が置いてあり、別の机の上にはドイツ・フランスが製作したMASCOT着陸機とJAXAが製作した2つのMINERVA-II-1ローバが置いてあります。ここで見えている風景や物体を作るために、OmniScopeというVRの可視化のために新しく始まった活動と一緒に作業をしています。




バーチャルリアリティによるツアー(© OmniScope / JAXA)

最初に、ミッションについての議論を始めました。リュウグウのようなC型の小惑星が誕生した頃の地球に水や有機物を運んできた可能性について話し合いました。部屋の中に一緒に立って、「はやぶさ2」によるサンプル採取の動画を見ました。そして、探査機の模型を見て、サンプラーホーンやターゲットマーカの取り付け位置を確認しました。ターゲットマーカは、探査機が小惑星表面に着地するときに目印になるように着地前に落としておくものです。

また、MASCOTやMINERVA-IIが格納されている場所も確認できましたが、その後、これらの模型のところに行き、これらが小惑星の微小重力のもとでどのように動くのかについて議論しました。これらの模型は、部屋にいる全員が手にとって回転させたり裏返しにしたりして詳しく調べることができました。

「はやぶさ2」の打上げの前、小惑星リュウグウは1999 JU3として知られていました。リュウグウという名前は、探査機が宇宙への旅に出発してから広く公募がなされて決まりました。リュウグウという名前は、日本の昔話である「うらしまたろう」から取られています。漁師のうらしまたろうは、ウミガメの背中に乗って、海底のお城である竜宮城に行ったのです。




バーチャルリアリティによるツアー。うらしまたろうの物語の海底にある竜宮城に行ったところ。
(© OmniScope / JAXA)

物語について話していると、周りの景色が変わりました。ミーティングルームから海底にある竜宮城へと移動したのです。ちょうど、うらしまたろうとウミガメが到着しました。竜宮城の景色を見ながら、「はやぶさ2」の意義について議論をしました。うらしまたろうは、玉手箱を持って帰って行きました。後で分かるのですが、その箱の中には彼が積み重ねた年齢が入っていたのです。「はやぶさ2」も地球に戻ってきたときには、カプセルという箱を持っています。その中には、我々の惑星である地球の歴史が詰まっていることでしょう。

竜宮城から離れて、今度は小惑星リュウグウの表面に立ちました。私たちの周りにある黒っぽい岩やその裂け目などは、「はやぶさ2」が撮影した1回目のタッチダウン地点付近の画像を使って、OmniScopeによって三次元のモデルにしてバーチャルリアリティーに組み込んだものです。付近を歩き回って私たちの頭上にそそり立つ大岩やデコボコだらけの地面を見ると、安全な着地点を見つけることが非常に難しいと言うことがよく分かります。1回目のタッチダウン地点に立ちながら、「はやぶさ2」の小型モニターカメラCAM-Hが撮影した連続画像を見ました。CAM-Hは、探査機が小惑星表面に着地するときにサンプラホーン付近を撮影していたのです。





バーチャルリアリティのツアー。1回目のタッチダウンのビデオを、リュウグウ上の同じ場所に立って見ているところ。(© OmniScope / JAXA)

私たちグループ全員は、この体験を楽しみました。後で、横浜インターナショナルスクールの物理を教えているSimon Lorimer先生は、非常に面白くて魅力的な取り組みであると感想を話されていました。特に、説明を聞きながら探査機を自由自在に動かせるところがよいということでした。

最近、異なる2つの理由で、オンラインによる交流というものへの関心が強まってきています。一つは現在のパンデミック(新型コロナウイルスによる感染爆発)のためで、もう一つは旅行することが地球の気候変動に影響するのではないかという危惧のためです。しかし、私たちが行ったこの「はやぶさ2」のバーチャルリアリティによるツアーは、人と面と向かって会うことの代替手段以上の可能性がバーチャルリアリティにはあるということを示唆しています。バーチャルリアリティを使うことによって、世界中のどこで物事が起ころうと、自分の部屋にいながらして、実際にはいくことのできないところへの体験ができるのです。


エリザベス・タスカー(日本語訳 吉川真) はやぶさ2プロジェクト
2020.05.11