トピックス2019年1月のB0X-B運用での撮影画像

いよいよタッチダウンを迎えますが、その前に、1月に行いましたBOX-B運用での画像をお見せしたいと思います。

BOX-B運用とは、探査機の高度(リュウグウからの距離)は約20kmに保ったまま、探査機の位置を南北方向や東西方向に移動させてリュウグウを異なる角度から観測する運用のことです(詳しくはこちら)。

BOX-B運用は、昨年の8月から9月にかけて行っています(http://www.hayabusa2.jaxa.jp/topics/20180927_BoxB/ を参照)。このときは、リュウグウの南極側の観測(1回目のBOX-B観測)と、リュウグウの夕方側の観測(2回目のBOX-B観測)を行いました。今回はさらに2回のBOX-B観測をおこなっています。最初(通算3回目)は衝方向からの観測で、次(通算4回目)にリュウグウの北極側の観測をしました。

衝方向からの撮影

通算3回目のBOX-B運用は、1月5日〜12日に行いました。ここでは、衝観測と呼ばれるものを行っています。衝観測とは、小惑星から見て太陽と同じ方向に「はやぶさ2」を位置させて観測することです。つまり、小惑星から見ると「はやぶさ2」が太陽と重なっていることになります。リュウグウを地球、「はやぶさ2」を月に置き換えると、皆既日食と同じです。ただ、BOX-Bの距離では、「はやぶさ2」は太陽を隠すことはできずに、リュウグウからは太陽に重なった小さな点として見えることになります。より具体的には、図1の角度θ(位相角)がゼロになるところに探査機がいることになります。


  • [別ウィンドウで開く] 図1:太陽、リュウグウ、「はやぶさ2」の位置関係。
    角度θのことを位相角と呼ぶ。(画像クレジット:JAXA)

図2が衝観測で得られた画像です。撮影は望遠の光学航法カメラ(ONC-T)を使って、2019年1月8日、19:12(日本時間)頃に撮影されました。これまで公開してきた写真とかなり雰囲気が違います。全体的にコントラストが小さくのっぺりとした画像になっており、表面の様子がよく分かりません。これは「衝効果」として知られて現象で、凹凸が多い天体表面やレゴリス(天体表面の砂礫)で覆われた天体表面の場合、位相角がゼロに近いと表面が明るく輝いて見える現象です。位相角がゼロになると表面物質の多数の細かい影が消えるために起こる現象です。

図2の画像でわかるように、リュウグウの中央付近も周辺付近も同じ明るさに見えています。この画像ではリュウグウの立体感があまり感じられません。これは、“盆のような月”という表現と同じように、天体の周辺まで明るく見えているためです。専門的には「周辺減光が無い」ということになります。これが衝効果によるものです。

このようなのっぺりした画像の中に、白く光っている1つの点を見つけました。これは、去年の10月にリュウグウ表面に降ろしたターゲットマーカ(TM-B)が太陽の光を反射して光っているものです。何と20kmの距離からも太陽の光を反射するターゲットマーカを確認することができたのです。まさにここにタッチダウンを試みるわけです。なお、図3に比較のために衝方向からではない場合の画像を示します。


  • [別ウィンドウで開く] 図2:衝方向から撮影されたリュウグウ。
    望遠の光学航法カメラ(ONC-T)を使って、2019年1月8日、19:12(日本時間)頃に撮影。矢印の先の白い点がターゲットマーカ。リュウグウまでの距離は約20km。
    (画像クレジット:JAXA, 東京大, 高知大, 立教大, 名古屋大, 千葉工大, 明治大, 会津大, 産総研)

  • [別ウィンドウで開く] 図3:衝方向ではない場合の画像(図2とほぼ同じ方向からの撮影)。
    2018年7月12日に望遠の光学航法カメラ(ONC-T)で撮影された画像。この撮影の時の位相角は約19度。ターゲットマーカ投下前であるため、ターゲットマーカはリュウグウ表面には存在していない。矢印の先端がタッチダウン予定地点となる。
    (画像クレジット:JAXA, 東京大, 高知大, 立教大, 名古屋大, 千葉工大, 明治大, 会津大, 産総研)

これまでも太陽方向からの写真はたくさん撮影されていますので、今回の写真がどうして図2のようなのっぺりしたものになるのか疑問に思った方もいらっしゃるかと思います。たとえば、図4にターゲットマーカを投下する運用(TD1-R3)のときに広角の光学航法カメラ(ONC-W1)で撮影された画像を示します。

図4で中央付近に黒い点が見えますが、これが探査機の影です。つまりこの影があるところでは、位相角(図1のθ)がゼロになっていることになります。そして影の周りが明るくなっていますが、これが衝効果です。しかし、影の位置から離れると小惑星の表面能様子を普通に見ることができます。これは、位相角が大きくなるため、衝効果が現れていないためです。

図4の写真は小惑星に接近して撮影したものですが、今回のBOX-B観測では小惑星から約20km離れたところから撮影をしているため、小惑星全面にわたって位相角がゼロに近いことになります(位相角は最大でも1.5度程度)。そのために、小惑星全体が衝効果のためのっぺりしたものとして撮影されていることになります。


  • [別ウィンドウで開く] 図4:2018年10月25日に広角の光学航法カメラ(ONC-W1)で撮影された画像。
    中央付近の小さな黒い点が探査機の影である。この影のところが位相角ゼロとなるところであり、影の周りが明るくなっているのは衝効果によるものである。なお、この画像ではリュウグウの形がゆがんでいるが、これはリュウグウにかなり接近して(高度約450m)広角のカメラで撮影していることによる。(画像クレジット:JAXA)

北極付近の撮影

通算4回目のBOX-B運用は、1月18日〜31日に行いました。ここでは、リュウグウの北極付近を観測しています。昨年の8月から9月にかけて行ったBOX-B運用では、リュウグウの南極周辺の観測を行いましたので、今回は北極周辺の観測を行ったわけです。撮影した画像を図5に示します。

図5は、探査機を北極方向に移動させて、リュウグウを斜めから撮像した画像です。画像の上側が北極となります。北極域には多数の大きな岩塊が見られます。画像の中央より少し下側に左右に伸びる白い筋は、赤道リッジ(リュウジン尾根)になります。矢印がタッチダウン予定地点ですが、タッチダウン予定地点がこのリッジ上にあることがわかります。


  • [別ウィンドウで開く] 図5:2019年1月24日16:33(日本時間)頃に望遠の光学航法カメラ(ONC-T)で撮影されたリュウグウ。
    主にリュウグウの北半球が撮影されている。矢印の先端がタッチダウン予定地点を示す。
    (画像クレジット:JAXA, 東京大, 高知大, 立教大, 名古屋大, 千葉工大, 明治大, 会津大, 産総研)

北極方向からの撮像は今回が初めてです。今回の観測で、リュウグウの赤道領域、南半球、北半球の全てのデータがそろいました。全領域の撮像は、リュウグウの正確な全球形状モデルを作成するために非常に重要となります。

※ 画像を引用する場合にはクレジットを記載してください。もしクレジットの短縮が必要な場合は「JAXA、東大など」と表記してください。


はやぶさ2プロジェクト
2019.02.20