トピックス第60回宇宙科学技術連合講演会における
「はやぶさ2」関連発表の報告

2016年9月6日から9日にかけて、函館の函館アリーナにて、第60回宇宙科学技術連合講演会という会合が開催されました。宇宙科学技術連合講演会とは、航空宇宙の技術や科学に関して毎年行われている講演会としては、国内では最大のものです。単純に「宇科連(うかれん)」とも呼びます。日本航空宇宙学会が主催ですが、10以上の学会や団体が共催で開催されるもので、個々の学会の講演会とは異なります。

  • 写真 「はやぶさ2」オーガナイズドセッションの会場の様子
    (「はやぶさ2」プロジェクト撮影)

この第60回宇宙科学技術連合講演会にて「はやぶさ2」のオーガナイズドセッションが講演会初日の9月8日に開催されました(OS27)。講演タイトルと著者名は次のようになります。

    ■小惑星探査機はやぶさ2のミッションと巡航運用状況
    ○津田 雄一, 吉川 真, 中澤 暁, 佐伯 孝尚(JAXA), 渡邊 誠一郎(名大)
    ■小惑星探査機はやぶさ2の地球スイングバイ運用
    ○山口 智宏, 佐伯 孝尚, 武井 悠人, 照井 冬人, 尾川 順子, 三桝 裕也,田中 智, 鈴木 亮, 竹内 央(JAXA), 益田 哲也, 松岡 正敏(日本電気), 谷口 正(富士通), 津田 雄一(JAXA)
    ■小惑星探査機はやぶさ2の軌道決定
    ○竹内 央, 山口 智宏, 吉川 真, 市川 勉, 佐伯 孝尚, 津田 雄一(JAXA),谷口 正, 藤井 信明(富士通)
    ■はやぶさ2 地球スイングバイ時・巡航時の姿勢運用
    ○吉川 健人, 照井 冬人, 三桝 裕也, 尾川 順子(JAXA)
    ■はやぶさ2イオンエンジンの開発・運用状況
    ○細田 聡史, 西山 和孝, 月崎 竜童, 國中 均(JAXA)
    ■はやぶさ2搭載光学航法カメラの地球・月スイングバイ観測報告
    ○澤田 弘崇(JAXA), 山田 学(千葉工大), 本田 理恵(高知大), 亀田 真吾(立教大), 諸田 智克(名大), 本田 親寿(会津大), 鈴木 秀彦(明治大), 神山 徹(産総研), 杉田 精司(東大)
    ■はやぶさ2近赤外分光計を用いた地球・月観測
    ○北里 宏平(会津大), 岩田 隆浩, 安部 正真, 大竹 真紀子(JAXA)
    ■TIRによる地球スイングバイ時の地球・月撮像
    ○岡田 達明(JAXA), 福原 哲哉(NICT), 田中 智(JAXA), 田口 真(立教大),荒井 武彦(国立環境研究所), 今村 剛(JAXA), 千秋 博紀(千葉工大), 小川 佳子, 出村 裕英(会津大), 関口 朋彦(北海道教育大), 神山 徹, 中村良介(産総研), 松永 恒雄(国立環境研究所), 長谷川 直, 和田 武彦(JAXA), 滝田 隼(東大), 坂谷 尚哉(JAXA), 堀川 大和(総研大), 遠藤 憲(会津大), ベルバート ヨルン(ドイツ航空宇宙センター), ミュラー トマス(マックスプランク地球外物理学研究所), ハゲルマン アクセル(オープン大)
    ■はやぶさ2搭載LIDARを用いた光リンク実験
    ○水野 貴秀(JAXA), 野田 寛大(国立天文台), 國森 裕生(NICT), 千秋 博紀(千葉工大), 尾川 順子, 竹内 央, 山口 智宏, 佐伯 孝尚(JAXA), 並木則行(国立天文台), 津田 雄一
    ■はやぶさ2の小惑星近傍運用計画
    ○佐伯 孝尚, 山口 智宏, 武井 悠人, 岡田 達明, 尾川 順子, 澤田 弘崇,嶋田 貴信, 鈴木 亮, 田中 智, 照井 冬人, 中澤 暁, 三桝 裕也, 吉川 健人, 三浦 昭(JAXA), 山田 学(千葉工大), 津田 雄一(JAXA)
    ■はやぶさ2のサイエンス目標と 観測運用計画の検討
    ○渡邊 誠一郎(名大), 田中 智(JAXA), 橘 省吾(北大), 荒川 政彦(神戸大), 杉田 精司(東大), 吉川 真(宇宙航空開発研究機構宇宙科学研究所)
    ■はやぶさ2ハードウェアシミュレータ(HIL)と運用訓練
    ○武井 悠人, 鈴木 亮, 佐伯 孝尚, 山口 智宏, 三浦 昭, 照井 冬人, 尾川順子, 三桝 裕也, 津田 雄一(JAXA)
    ■はやぶさ2 小惑星近傍での位置・姿勢運用検討
    ○三桝 裕也, 尾川 順子, 大野 剛, 吉川 健人, 茂渡 修平, 山元 透, 植田聡史, 照井 冬人(JAXA)

オーガナイズドセッションでは、以上の13件の論文発表がありました。著者名に○が付いている人が発表した人になります。さらに、オーガナイズドセッション以外でも「はやぶさ2」関連の発表がありますので、セッション名、タイトル、著者を記載すると次のようになります。

セッション:宇宙の微粒子の観測・捕集技術
    ■はやぶさ2LIDARを用いたダスト計測
    ○千秋 博紀(千葉工大), 押上 祥子(工学院大), 小林 正規(千葉工大), 山田 竜平, 並木 則行, 野田 寛大(自然科学研究機構国立天文台RISE月惑星探査検討室), 石原 吉明, 水野 貴秀(JAXA)
    セッション:アウトリーチ
    ■はやぶさ2地球スイングバイ観測キャンペーンについて ○吉川 真, 山口 智宏(JAXA), 安田 岳志(姫路市宿泊型児童館「星の子館」・JAPOS), 三島 和久(倉敷科学センター・JAPOS), 井上 毅(明石市立天文科学館・JAPOS), 井本 昭(日本惑星協会), 奥村 真一郎(日本スペースガード協会) [当日の発表者:山口智宏]

    以上のように、「はやぶさ2」関連の発表は15件になりました。その内容もミッション全般、スイングバイ、イオンエンジン、ミッション機器、サイエンス、運用、アウトリーチと多岐にわたっています。


    さて、この宇科連に参加したプロジェクトメンバーの何人かに感想を述べてもらいました。


      ◆それぞれのご担当の観点からとてもよく成果が整理されていて、これまでの成果を総括するなかなかよい内容になったのではと思います。プロジェクト外の聴衆が多かったも良かったですね。今回は、限られた時間だったので、成果に直結する講演で固めましたが、次回があるとすれば、縁の下の力持ちとなっている(そして、開発の時の苦労はひとかたならなかった)探査機バスシステムに焦点を当てるのもよいかなと思いました。(津田雄一)

      ◆私は、昨年末の地球スイングバイに関する発表をさせていただきました。日本の探査機によるスイングバイは、「はやぶさ」以来で、ほぼ十年ぶりでした。そのような重要なイベントに関する発表をさせていただき、とても光栄でした。私自身、「はやぶさ2」の地球スイングバイ運用を行う中で、大学の授業やアカデミックな研究などでは考慮されにくい「泥臭い最適化」を学ぶことができました。このような貴重な経験を聴衆の皆様とできるだけ共有できるように気をつけました。次のスイングバイの機会に、今回の発表でまとめた内容を参考にすることができれば良いなと思います。(山口智宏)

      ◆昨年末にNIRS3の地球・月観測の速報をウェブにてお知らせしましたが、今回は新たに月観測で検出された水酸基の赤外吸収について発表しました。同じような結果は過去の探査機観測からも得られているため、このことからNIRS3の観測性能が十分高いことを確認することができました。水分のないドライな環境である月でなぜ水酸基?と疑問に思う方がいらっしゃるかもしれませんが、その説明についてはまたの機会に。(北里宏平)

      ◆AOCSの巡航フェーズにおける運用報告というテーマで、貴重な発表機会をいただきありがとうございました。巡航フェーズでも姿勢運用に関してRW回転数やOWC 運用における姿勢予測など細やかな配慮をしてチーム一丸で実施していることがお伝えできていれば幸いです。また、今後も探査機運動を適切に予測し、(特に特別な運用では)事前にリスクを出来るだけ取り除けるよう精進していきたいと再認識いたしました。個人的にも、短い期間ではありますがプロジェクトに関わらせていただき、探査機運用や姿勢運動に関して非常に勉強になっております。ありがとうございます。(吉川健人)

      ◆プロジェクト内の会議では普段端折られているはやぶさ2の背景や基礎を含めて説明して頂けるとても良い機会でした。また複数の探査プロジェクトのオーガナイズドセッションが企画されていたことから、プロジェクト毎にキーとなる技術や抱える課題が異なることを改めて見渡せたことも収穫です。(武井悠人)

    「はやぶさ2」に関連する研究は、非常に幅広い分野で行われています。これからもいろいろな分野で研究が進展していくよう、プロジェクトメンバー全員で頑張っていきたいと思っています。


    はやぶさ2プロジェクト
    2016.10.31