トピックス「はやぶさ2」トークライブVOL.4報告

たまてばこ vol.8

4回目の「はやぶさ2」トークライブの報告です。トークライブVOL.4は2016年8月21日に相模原市立博物館にて行われました。テーマはAOCS、つまり姿勢軌道制御です。講演者は、「はやぶさ2」プロジェクトチームの照井冬人さんと吉川健人さん。講演のタイトルは「小惑星到着後の接近・降下・タッチダウンを実現する画像航法誘導制御」です。司会は、「はやぶさ2」プロジェクトの武井悠人さんで、司会としては今回が初登場です(写真1)。今回も、博物館の部屋がほぼ一杯になるくらい沢山の人の参加がありました。

  • 写真1 はやぶさ2トークライブVOL.4の会場の様子
    スクリーン脇で話しているのは、トークライブ司会デビューした武井悠人さん。

最初に、講演のプレゼンファイルと当日の様子を撮影したビデオをあげておきます。

 当日のビデオ(YouTube)

詳しく知りたい方は、これらをご覧ください。

今回のテーマのAOCSとは、探査機や人工衛星の工学の世界では普通に使われている言葉ですが、Attitude and Orbit Control System の略になります。つまり、姿勢軌道制御システムということです。これは、探査機や人工衛星にとっては重要なものですが、特に「はやぶさ2」については小惑星近傍での運用やタッチダウンにおいて非常に重要な役割を果たします。AOCSのベテランの照井さん(写真2)と、若手でバリバリ仕事をしている吉川健人さん(写真3)の組み合わせで、トークライブは行われました。

  • 写真2 照井冬人さん
  • 写真3 吉川健人さん

以下では、話された主な項目を記載します。詳しくは、上記の資料やビデオをご覧ください。

最初に、筆者の方から「はやぶさ2」の現状について簡単に報告をして、吉川健人さんのトークが始まりました。まず、ミッションの概略説明とAOCSについての基本的な説明がありました。その内容の主な項目を挙げると次のようになります。

■ミッションの概略説明  
    ・フライトモデル
      ・打ち上げ:2014年12月3日  
        ・探査機の機器説明
          ・軌道、ミッションシナリオ
            ・ミッション動画


          ■AOCSとは何か

            ・姿勢軌道制御系(Attitude and Orbit Control Subsystem)
              ・姿勢=探査機や人工衛星の向き
                ・軌道=運動する道筋
                  ・制御=目的の場所に持って行ったり、目的の状態にしたりすること。航法・誘導が必要。


                次に、AOCSとしてどのような装置があるのかについての説明がありました。AOCSのサブシステムとしては、次のようなものがあります。

                  ・搭載計算機(AOCP)、画像保存・処理用のコンピュータ
                    ・アクチュエータ:RCS、リアクションホイール
                      ・センサ:スターセンサ、ジャイロセンサ、航法カメラ、LRF、LIDAR、加速度計
                        ・その他:ターゲットマーカ、フラッシュランプ


                      姿勢制御として重要な装置は、リアクションホイールと呼ばれるものです。これは、コマのようなものがぐるぐる回ることによって、姿勢を安定化するものです。「はやぶさ2」では、リアクションホイールの運用モードに、W3AXとOWCという2つのモードがあります:  

                        ・W3AXモード:X、Y、Zの3台のリアクションホイールで制御
                          ・OWCモード:RWを1台(Z軸)のみを使って制御


                        OWCではリアクションホイールを1台しか使わないことになり、これはリアクションホイールの延命措置を行っていることになります。OWCモードは「はやぶさ」の経験を元にして考案された運用法です。

                        もう1つの重要な装置は、RCSと呼ばれる化学推進系です。これは化学燃料を燃焼し、ガスを噴射することで姿勢を変えるものです。合計12個のスラスタが付いており、各軸のまわりに探査機を回転させたり、移動したりするときには、決められたスラスタを吹けばよいことになります。


                        巡航フェーズにおいては、W3AXとOWCモードが基本となります。実際の運用では、可視時間になる前に手順書やコマンドを作成し確認をします。運用が開始されたら探査機の状態を確認します。例えば、姿勢がおかしくないかなどをチェックするわけです。リアクションホイールの回転数としては、3,000rpm(1分あたりの回転数)程度を目安にしています。そして、運用の最後には、目標の姿勢になっているか、機器が安定しているかなどを確認します。


                        ここで、一つの運用の例として、スイングバイ時に観測されたリアクションホイールの回転数の変化について紹介します。2015年12月3日の地球スイングバイのときに、リアクションホイールの回転数が大きく変化しました。この変化がなぜ起こったのか、検討してみました。リアクションホイールの回転数が変化するのは、姿勢の外乱に対応して姿勢をキープするためです。外乱の可能性としては、重力傾斜トルク、地球磁場・残留磁気、太陽輻射圧、大気抵抗などが挙げられます。詳細な検討を行ったところ、スイングバイ時のリアクションホイールの回転数の変化は、重力傾斜トルクと地球磁場によることが分かりました。(ここの部分はかなり難しい内容になります。)


                        次に、照井さんから小惑星に着いてからの運用についての説明がありました。まず、目的地である小惑星リュウグウについてですが、現時点では情報は少ないのが問題です。分かっていることは、大きさが900mくらいで形が丸いということ、自転周期が7時間38分で、黒っぽいC型小惑星ということくらいです。小惑星の重力も分かりませんし、表面がでこぼこなのかどうかも分かりません。自転の向きも分かりません。探査機が小惑星に到着したら、詳しく調べて運用の方法を検討することになります。


                        小惑星近傍での探査機の運用ですが、可能ならば自然地形をカメラで撮影して探査機が自分で判断して動くようにできればよいのですが、これはかなり難しいことです。なので、基本は画像を見て人間が判断して運用することになります。ただし、タッチダウンのときはターゲットマーカを利用して自動的に行うことになります。

                        ここで、休憩およびパネルディスカッション(下記)を挟んで、照井さんの話が続きます。いろいろな課題に対してどうするかですが、まず画像を沢山撮影して3次元形状モデルを作ることをします。そして、小惑星表面の特徴点(岩とか穴など)を把握します。これまで、実際に小天体の模型を作って、カメラでその模型の写真をたくさん撮影して、3次元の形状を推定することをやってきました。小惑星の形状を推定する練習は終わっています。

                        次に、タッチダウンの場所を決めることになります。サイエンスの人は、いろいろな希望を言ってくるのですが、実際に降りることができるのはかなり限られた場所になります。条件としては、アンテナを地球に向けながら降りるなどいろいろな制約があります。


                        タッチダウンの仕方ですが、まず探査機は高度20kmのところのホームポジションにいます。ここに探査機を滞在させるときにも燃料が必要になります。小惑星の引力の強さによっては、20kmという値を変える可能性もあります。タッチダウンするときには、目標軌道に沿って探査機が降りていくようにします。降りるときには広角のカメラを使いながら降りていくことになります。実際には、目標の軌道がからずれてしまうわけですが、探査機の位置を推定して予定からずれていたら、スラスタを吹いて修正することになります。


                        高度40mまでは人海戦術で降下することになります。約10分間隔で位置を確認して必要があれば制御をします。ここで使うのはGCP-NAV(Global Control Point Navigation)という手法です。そのためのツールもできています。(トークライブではそのツールの説明もありました。)そして、高度40mでターゲットマーカを切り離して、その後は自動で降下することになります。ターゲットマーカを探査機が認識するのは難しくはありません。

                        15m以下では、小惑星表面にならうように探査機の姿勢を制御します。このときには、4本のレーザービームがあるLRFという装置を使います。ビームの数は計測のためには3本で十分ですが、1本のレーザービームが正しく反射してこないことなども考慮して余裕を持たせて4本のビームを使っています。


                        ターゲットマーカですが、これは直径が10cmの玉のようなものです。表面は道路標識に使われるような素材で、光を来た方向に返すような性質があります。探査機がフラッシュランプを持っていて、それが4秒に1回光ります。画像の方は2秒間隔で撮影しますので、フラッシュが光ったときと光っていないときの画像が撮影できることになります。これらの画像を引き算すると、ターゲットマーカの位置が分かるわけです。完全に太陽を背にすると、太陽の光でターゲットマーカが光るのでフラッシュを使う必要はありません。

                        そして、衝突装置を使ったときのピンポイントタッチダウンですが・・・

                        ここで、時間切れとなってしまいました。ピンポイントタッチダウンについては、また別の機会としたいと思います。


                        講演の途中では、トークライブの恒例となってきました、パネルディスカッションを行いました(写真4)。パネルディスカッションでは、AOCSの作業で大変なことや、どのようなことに神経を使っているのか、そして実際の運用は何人くらいでやっているのか、などについて話がありました。さらに、小惑星に到着してからのAOCSのポイントについても議論がありました。照井さんや吉川健人さんがどうしてこの分野に入ることになったのかについてもお話しを聞きました。最後には、照井さんのAOCSへの将来の夢の話もありました。


                        • 写真4 4人でパネルディスカッションをしているところ
                          左から、筆者(吉川真)、照井冬人さん、吉川健人さん、そして司会の武井悠人さん。(ちなみに筆者以外は、全員、名前に“人”が付いている。)

                        トークライブが終わった後ですが、会場に来ていただいた方と直接お話しをする時間を取っていただいています。何人もの方がはやぶさ2のAOCSについて熱心に質問してくださり、講演者もとても有意義な時間が過ごせたようです。時にはかなりマニアックな(=ハイレベルの)質問もありました。このようなことを通して、皆様の理解がよりいっそう深まっていれば嬉しく思います。


                        • 写真5 会場の様子

                        当日は、外は非常に蒸し暑い状況でしたが、多数の皆さんに参加していただきまして、どうもありがとうございました(写真5)。また、今回も相模原市立博物館の皆さんやボランティアの皆さんにお世話になりました。特に、星空公団さんによるビデオ中継は、今回はかなり鮮明なものになりました。今後もビデオ中継を行いたいと思いますので、トークライブの会場にいらっしゃれない場合は、是非、中継をご覧ください。引き続き、「はやぶさ2トークライブ」をよろしくお願いします。


                        ※この文章は、照井さん・吉川健人さんにもチェックしていただいています。


                        「はやぶさ2」トークライブコーディネーター 吉川真
                        2016.08.21

Message from Project 一覧

「はやぶさ2」は,人類が訪れたことのない小惑星「リュウグウ」との往復航行をする宇宙船です.どんな冒険が待ち受けているか誰にも分からないけれど,きっと面白い航海になるはずです。どんな旅をするか,楽しみにしていてください。
(プロジェクトマネージャ 津田雄一)